ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

問題 3-1 の解答例

Problem 3-1

The probability that a particle arrives at the point $b$ is by definition proportional to the absolute square of the kernel $K(b,a)$. For the free-particle kernel of Eq. (3-3) this is $$ P(b)\ dx = \frac{m}{2\pi\hbar(t_b-t_a)}\,dx \tag{3-6} $$ Clearly this is a relative probability, since the integral over the complete range of $x$ diverges. What does the particular normalization mean? Show that this corresponds to a classical picture in which a particle starts from the point $a$ with all momenta equally likely. Show that the corresponding relative probability that the momentum of the particle lies in the range $dp$ is $dp/2\pi\hbar$.


(解答)

§ 2- 2 から, 時刻 $t_{a}$ に点 x_{a} から出発し, 時刻 t_{b}x_{b} に到る確率 $P(b,a)$ は, $a$ から $b$ に至る振幅 $K(b,a)$ の絶対値の2乗である: $P(b,a)=|K(b,a)|^{2}$ .従って, 自由粒子の振幅の式(3-3)の場合では, $ \def\ket#1{|#1\rangle} \def\bra#1{\langle#1|} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} $

\begin{align} P(b,a)&=|K(b,a)|^{2}=K(b,a)\,K^{*}(b,a)\notag\\ &=\sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar (t_b-t_a)}}\sqrt{\frac{m}{-2\pi i\hbar (t_b-t_a)}}\exp\left(\frac{im(x_b-x_a)^{2}}{2\hbar(t_bt_a)}\right) \exp\left(\frac{-im(x_b-x_a)^{2}}{2\hbar(t_b-t_a)}\right)\notag\\ &=\frac{m}{2\pi\hbar(t_b-t_a)} \tag{1} \end{align}

このときの物理的な状況は, 小出:「量子力学 ( I ) 」の§ 3. 5 に拠れば, 次のように記述されるであろう:

振幅 $K(b,a)$ は平面波すなわち運動量が一定の自由粒子の運動を表している.古典的に考えたときのその軌道は直線であり, 運動が一定の範囲に閉じた領域に限定されるものではない.量子論に移っても同様で, 波動関数は何処か一定の点の近くだけに固まっているようなものではない.そもそも平面波では運動量の値が確定しているので, 不確定原理から, 位置についての不確定度は無限大と言うことになる.つまり粒子が何処に居るかさっぱり分からないのである.このことは $|K(b,a)|^{2}$ が $x$ に依らず一定になるということに対応する.

このとき, 点$x=x_b$に於いて粒子を見出す確率$P(x)\,dx$は,

\begin{equation} P(x)\,dx = \frac{m}{2\pi\hbar(t_b-t_a)}\,dx \tag{3-6} \end{equation}

この確率を$x$の全領域に渡って積分すると, 明らかに発散してしまう:

\begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} P(x)\,dx = \frac{m}{2\pi\hbar(t_b-t_a)}\int_{-\infty}^{\infty} \,dx = \infty \end{equation*}

無限の空間の何処かに居る粒子など探しようがない訳である.そこで一応規格化を諦めて, 相対確率だけを考えるべきである.従って, 式(3-6)は相対確率と見做すべきだ.

ここで, 点 $b$ を $t_a$ から微小時間だけ経った時刻 $t_b=t_a+dt$ として見る.すると式(3-6)は次に書ける:

\begin{equation} P(x)\,dx = \frac{m}{2\pi\hbar}\frac{dx}{dt}=\frac{1}{2\pi\hbar}m\frac{dx}{dt}=\frac{p}{2\pi\hbar}\equiv F(p) \tag{2} \end{equation}

佐藤拓宋:「電気系の確率と統計」の§ 4. 1 から「連続形の分布関数」についての記述をこの場合に合うように修正して示すと,

我々が普通用いる相対度数は, ある値を取る割合がいくつかというような表現になっている.この相対度数に相当するものは連続形の場合は分布関数 $F(x)$ を $x$ について微分することにより求めることが出来る: $$ f(x)=\frac{d F(x)}{dx} $$ この $f(x)$ のことを「確率密度関数」(probability density function)と呼んでいる.

よって, 式(2) は運動量 $p$ の分布関数 $F(p)$と見做そう.すると確率密度関数 $f(p)$ は次になる:

\begin{equation} F(p)=\frac{p}{2\pi\hbar}\ \rightarrow\ f(p)dp =\frac{d F(p)}{dp}dp = \frac{1}{2\pi\hbar}\,dp \tag{3} \end{equation}

これは明らかに「一様分布」である.すなわち, 粒子が点 $a$ を出発するときは「全ての運動量を同じ確率でもって出発する」と言える.そして式(2)の右側の式からは, 次が言えるであろう:

運動量が領域 $dp$ に在る相対確率は \displaystyle f(p)dp=\frac{dp}{2\pi\hbar} である.