ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

ガウス積分について

この記事は本文 §3.5 からの抜粋である.あえて記事として書いておくのは, この部分は以降の章でよく利用される事柄で, 問題3-11でも用いられるからである.


最も単純な経路積分は「指数部分に全ての変数が2次の多項式の形で現れる場合」で, それは特に「ガウス積分」と呼ばれる.量子力学では作用 $S$ が経路 $x(t)$ を2次まで含んでいることに相当する.経路積分の方法がこのような場合にどれだけ有効であるかを見るために, ラグランジアンが次で与えられるような粒子の運動を考える:

\begin{equation*} L=a(t)\,\dot{x}^{2}+b(t)\,\dot{x}x+c(t)\,x^{2}+d(t)\,\dot{x}+e(t)\,x+f(t) \tag{1} \end{equation*}

作用 $S$ は, このラグランジアン $L$ を固定した2端点 $[a,b]$ 間で時間積分したものである: $$ S[b,a]=\int_{t_a}^{t_b} dt\,L(\dot{x},x,t) \tag{2} $$ そして, 求めるべき核 $K(b,a)$ は次である:

\begin{equation*} K(b,a)=\int_a^{b}\mathscr{D}x(t)\,e^{iS[b,a]/\hbar} = \int_a^{b} \mathscr{D}x(t)\,\exp\left[\frac{i}{\hbar} \int_{t_a}^{t_b} dt\,L(\dot{x},x,t)\right] \tag{3} \end{equation*}

この経路積分を実際に計算するための有用な方法が以下に述べるやり方である.

指定された2端点間の古典的軌道を $\bar{x}(t)$ とする.これは「作用 $S$ の極値を与える経路である!」.経路 $x(t)$ はこの古典的軌道 $\bar{x}$ と新しい変数 $y$ を用いて表すことが出来る: $$ x=\bar{x}+y \tag{4} $$ この変数 $y$ は古典的経路からの「ずれ」(deviation) または「変動」(fluctuation) であり, それは任意である.ただし, 経路は同じ端点に到達すべきだから, 条件:$y(t_b)=y(t_a)=0$ を満たさなければならない.他方, 古典的軌道は完全に固定されているから, 経路 $x(t)$ を任意に変えることは $y(t)$ を変えることに等価である.よって経路 $x(t)$ は $\bar{x}(t)+y(t)$ で置き換えることが出来て, その際に$\bar{x}(t)$ は定数となり, 経路の微分 $\mathscr{D}x(t)$ は $\mathscr{D}y(t)$ に置き換えられる.また「古典的軌道 $\bar{x}$ は作用 $S$ の極値を与える経路である」ことから,「 $\bar{x}$ の周りに経路の変分をとったときに, 1次のオーダーでは $S$ の変化はゼロである:$\partial S/\partial y=0$」.よって$y$ について残るのは2次の項だけであるべきで, 作用は次のように表される:

\begin{equation*} S[x(t)]=S_{c\ l}[b,a]+\int_{t_{a}}^{t_{b}} dt\,\Bigl[ a(t)\,\dot{y}^{2}+b(t)\,\dot{y}y+c(t)\,y^{2}\Bigr] \tag{5} \end{equation*}

このとき, 経路についての $\mathscr{D}y(t)$ 積分は古典的経路に依存しない.そして, 全ての経路 $y(t)$ は $y=0$ から出て $y=0$ に戻るのであるから, 核は次のように書くことが出来る:

\begin{equation*} K(b,a)=e^{i S_{c\ l}/\hbar} \int_{0}^{0} \mathscr{D} y(t)\,\exp\left\{ \frac{i}{\hbar} \int_{t_a}^{t_b} dt\, \Bigl[ a(t)\,\dot{y}^{2}+b(t)\,\dot{y} y+c(t)\, y^{2} \Bigr]\right\} \tag{6} \end{equation*}

よって$\mathscr{D}y(t)$積分は「両端点の時刻にのみ依存する」ものだ.それは核が次のように書けることを意味する: $$ K(b,a)=e^{iS_{c\,l}[b,a]/\hbar}\,F(t_b,t_a) \tag{7} $$ すなわち, 核 $K(b,a)$ は関数 $F(t_b,t_a)$ 以外は古典的軌道によって決定され, 特に核の空間変数 $x_a,x_b$に対する依存性は完全に求められる.

関数 $F(t_b,t_a)$ は解について知られている他の性質から決定しなければならない.ただし, 作用 $S$ が2次形式すなわち「2次の同時多項式の場合」( 式(1)で言えば $d=e=f=0$ の場合) には, 近似式 $K\sim e^{iS_{c\,l}/\hbar}$ は正確なものとなる.