ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

§ 12-7 及び § 12-8 の外場ポテンシャル $V(t)$ は外力 $f(t)$ !

原書の§ 12-7 及び § 12-8 では「外場ポテンシャル $V(t)$」をそのまま式に使用している.しかし校訂版で訂正されているように,「原書の $V(t)$ はポテンシャルではなく外力 $f(t)$ に相当する」ようだ.

なぜなら, まず § 6-1 の式 (6.2) に, 外力 $f(t)$ の下にある調和振動子についてのポテンシャルは, $ \def\ket#1{|#1\rangle} \def\bra#1{\langle#1|} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} $

\begin{equation} V(x,t)=\frac{m}{2}\omega^{2}x^{2}-f(t)x \tag{6.2} \end{equation}

であると記されているからである.

また, 問題 3-11 の式 (3-65) 及び § 8-9「強制調和振動子」に於ける式 (8-136) には, 「調和振動子が外力 $f(t)$ によって駆動される場合のラグランジアンは,

\begin{equation} L=\frac{m}{2}\dot{x}^{2}-\frac{m\omega^{2}}{2}x^{2}+f(t) x \tag{3.65} \end{equation}
であるとも書かれている.参考までに, 式 (3.65) が調和振動子に外力$f(t)$が印加されている場合のラグランジアンになっていることを確認しておこう.この $L$ に対するラグランジュ方程式を求める.まず, 式 (3.65) の $L$ に対して,
\begin{equation} \ppdiff{L}{\dot{x}}=\frac{m}{2}\times 2\dot{x}=m\dot{x},\quad \ppdiff{L}{x}=-\frac{m\omega^{2}}{2}\times 2x + f(t)=-m\omega^{2}x+f(t) \tag{1} \end{equation}
従って,

\begin{equation} \odiff{t} \ppdiff{L}{\dot{x}} -\ppdiff{L}{x}=\odiff{t} m\dot{x}+m\omega^{2}x -f(t)=0 \tag{2} \end{equation}

よって, 運動方程式は次となることが分かる:

\begin{equation} m \ddot{x}=-m\omega^{2} x + f(t),\quad\text{or}\quad m \ddot{x}=-kx+f(t) \tag{3} \end{equation}

ただし $k\equiv m\omega^{2}$ である.この式 (3) が,「バネ定数 $k$ のバネ振り子に外力 $f(t)$ が作用している場合の運動方程式」であることは明らかである.

さらに, § 12.6「ブラウン運動」では, 式 (12.62) の右辺にある「揺動力 $f(t)$」が上記の場合の f(t)/m に相当している:

\begin{equation} \ddot{x}-\gamma \dot{x} +\omega^{2}_0 x = f(t) \tag{12.62} \end{equation}
そして, この式から $f(t)$ と $x(t)$ とは1対1対応をしていることになるので, $x(t)$ の確率分布は $f(t)$ の確率分布と同じになり, 次式が成り立つとしている:
\begin{equation} P_x[x(t)]\mathscr{D}x(t)=P_f[f(t)]\mathscr{D}f(t) \tag{12.63} \end{equation}

以上の事項などから, 校訂版で訂正されてあるように, 原書または旧和訳本の§ 12-7 及び § 12-8 では, 「ポテンシャル $V(t)$」を全て「外力 $f(t)$」に置き換えることが必要であるようである.それらをお持ちの方は注意して頂きたい.

式を理解するのに精一杯の者にとって, まさか「ポテンシャル $V(t)$ は力 $f(t)$ の方が妥当である」とは全く気付かず, 校訂版をたまたま参照して「確かにそうだな」と思った次第である.式中のこのような基本的な物理量について, ファインマンが言い違えていることに少し驚いた.