グリーン関数について part 3
Sturm-Liouville 理論としてのグリーン関数
以下は Wikipedia(英語版) を訳出したものである.
Sturm-Liouville theory
数学およびその応用に於いて, Jacques Charles François Sturm と Joseph Liouville にちなんで名付けられた古典的な Sturm-Liouville 理論は, 次の形をした実の2次の線形微分方程式についての理論である:
ただし $y$ は自由な変数 $x$ の関数とし, また関数 $p(x)$ と $q(x)$ そして $w(x)>0$ は最初から特定されている(specifined at the outset)とする.最も簡単な場合では, 全ての係数は有限な閉じた区間 $[a,b]$ で連続であり, $p$ は連続な導関数 (continuous derivative)を持っている.全ての場合で最も簡単なこの場合で, もし $(a,b)$ で連続微分可能(continuously differentiable)でかつ $(a,b)$ の全ての点で方程式(1)を満足するならば, この関数 $y$ は「解」(solution)と呼ばれる.さらに, 未知の関数 $y$ は, 典型的に $a$ と $b$ で幾つかの境界条件を満たすことが要求される.関数 $w(x)$ は時々 $r(x)$ とも書かれるが,「重み関数」(weight function)または「密度関数」(density function)と呼ばれる.
$\lambda$ の値は式の中では特定されない.境界条件を満たす方程式(1)の自明でない解(non-trivial solution)が存在するための $\lambda$ を見出す問題は Sturm–Liouville (S–L) 問題の一部である.
そのような $\lambda$ が存在する場合, その値は方程式(1)によって定義される境界条件の「固有値」(eigenvalues)と呼ばれる.この $\lambda$ の各々に相当する解たちは, この問題の「固有関数」(eigenfunctions)である.上記の係数関数 $p(x),\,q(x),\,w(x)$ が正規化されていると仮定するならば(under normal assumptions), それらは境界条件で定義されたある関数空間に於けるエルミートな微分演算子を誘導する(induce:帰納する).固有値の存在性と漸近的な振舞いの結果論, 相当する固有関数の適切な関数空間に於ける質的な理論は,「Sturm-Liouville theory」 として知られるようになった.この理論は応用数学に於いて重要である.そこでは S-L 問題は非常にありふれた問題である.特に, 変数分離可能な線形な偏微分方程式(linear partial differential equations that are separable)を扱う場合によく起こる問題である.
以下は, G.B.Arfken and H.J.Weber:「Mathematical Methods for Physicists」の§9.5 からの抜粋である.
Green's Function - Eigenfunction Expansion
グリーン関数をそれに相当する斉次方程式の固有関数で展開すると, $\delta(x-t)$ を表現する級数展開
と多少類似したものが生じる(result).次の非斉次なHelmholtz方程式を考える(we have): $$ \def\mb#1{\mathbf{#1}} \nabla^{2}\psi(\mb{r})+k^{2}\psi(\mb{r})=-\rho(\mb{r}) \tag{3} $$
次の斉次なHelmholtz方程式はその固有関数 $\phi_n$ が満たすとする: $$ \nabla^{2}\phi_n(\mb{r})+k^{2}_n\phi_n(\mb{r})=0 \tag{4} $$
グリーン関数 $G(\mb{r}_1,\mb{r}_2)$ は次の点源の方程式(the point source equation)を満たす:
グリーン関数 $G$ を式(4)の斉次方程式の固有関数 $\phi$ で級数展開する.すなわち,
これを式(5)に代入すると次を得る:
ただし$\delta(\mb{r}_1-\mb{r}_2)$ は式(2)のようにその固有関数展開したもので置き換えてある.$\phi_n(\mb{r}_1)$ の直交性を用いて $a_n$ を特定し(isolate), それを式(5)に代入すると, グリーン関数は予想通りに $\mb{r}_1$ と $\mb{r}_2$ について対称的な双一次展開 (bilinear expansion) となる:
最終的に, 求むべき非斉次方程式の解 $\psi(\mb{r}_1)$ は次で与えられる:
エルミート演算子 $\mathscr{L}$ を用いて非斉次微分方程式を一般化し, 次としてみる: $$ \mathscr{L}\psi+\lambda\,\psi=-\rho \tag{10} $$ すると, この場合のグリーン関数は次となる:
ただし $\lambda_n$ は $n$ 番目の固有値であり, また $\phi_n$ は上式に対応する次の斉次微分方程式の直交する固有関数である:
$$ \mathscr{L}\phi_n +\lambda\,\phi_n=0 \tag{12} $$ 式(11)のグリーン関数の固有関数展開から, その対称性 $G(\mb{r}_1,\mb{r}_2)=G(\mb{r}_2,\mb{r}_1)$が成立することがよく分かる.
1次元でのグリーン関数
定義特性(Defining Properties)
1次元の解析に於いて,まずは非斉次な「Sturm-Liouville方程式」を考える: $$ \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \mathscr{L}y(x)+f(x)=0 \tag{13} $$ ただし$\mathscr{L}$は, 次の「自己随伴 (self-adjoint) な微分演算子」とする:
ここで「自己随伴 (自己共役)」とは $\overline{\mathscr{L}}=\mathscr{L}$ すなわち $\BK{y}{\mathscr{L}y}=\BK{\mathscr{L}y}{y}$ が成り立つことを言う.
$y(x)$ は区間 $[a,b]$ の端点 $a$ と $b$ で, ある境界条件を満たす必要がある.実は, 区間はたぶん適当な境界条件が満たされるように選ばれるであろう.次にするのは, 区間 $[a,b]$ 上の幾分奇妙な任意関数 $G$ を定義することである.この段階で $G$ が守るべきことは, その定義特性が正当であるか, または数学的に受容出来るかということである.もし $G$ が妥当であるか明らかでないなら, 後の段階でそれが明白となることが望まれる (Later, it is hoped, $G$ may appear reasonable if not obvious).
$G$の「定義特性」(defining property)は以下である:
[ 1 ]. 区間 $a\le x\le b$ はパラメータ $t$ で分割される.$a\le x<t$ の場合 $G(x)=G_1(x)$ と名付け, $t<x\le b$ の場合 $G(x)=G_2(x)$ と名付ける.
[ 2 ]. 関数 $G_1(x)$ と $G_2(x)$ の各々は斉次な Sturm-Liouville 方程式を満たす.すなわち,
[ 3 ]. 点 $x=a$ で, $G_1(x)$ は $y(x)$ に課した境界条件を満たす.点 $x=b$ で, $G_2(x)$ はこの区間の端点で $y(x)$ に課された境界条件を満足する.再規格化するのに都合がいいように「斉次な境界条件」が採用される.すなわち, 点$x=a$で, $$ y(a)=0, $$ または, $$ y'(a)=0, $$ または, $$ \alpha\, y(a) +\beta\, y'(a)=0 $$ そして $x=b$ の場合も同様である.
[ 4 ]. $G(x)$ は「連続的」(continuous)であることが必要である (厳密に言えば, これは $x\to t$ の極限のときにである):
[ 5 ]. $G'(x)$ は「不連続」(discontinuous)であることが要求され, 特に次が成り立つ:
ただし $p(t)$ は式(14)の自己随伴演算子に由来するものである.ここで, 1次微分が不連続である場合には2次微分は存在しないことに注意する.
これらの必要条件は, 事実上 $G$ を2変数の関数 $G(x,t)$ にする.また, $G(x,t)$ は微分演算子 $\mathscr{L}$ と $y(x)$ が満たすべき境界条件の両方に依存することに注意する.
さて, これらの特性を持つ関数 $G(x,t)$ が見出されたとき, それを「グリーン関数」と呼び(に分類する : label), 式(13)の解を示す手続きに進むことが出来る:
これを示すため, まずはグリーン関数 $G(x,t)$ を構築する.$x=a$ での境界条件を満たす斉次な Sturm-Liouville 方程式の解を $u(x)$ としよう.そして $x=b$ での境界条件を満たす解を $v(x)$ とする.すると, 次とすることが出来る:
式(16)の $x=t$ での連続性が成り立つためには, 次が要求される: $$ c_2\,v(t)-c_1\,u(t)=0 \tag{20} $$ 最後に, 式(17)の1次微分での非連続性から次が言える:
もし次のロンスキー行列式
がゼロとならないならば, 未知の係数 $c_1$ と $c_2$ にユニークな解が存在する.このロンスキアンがゼロでないことは, 線形独立であるための必要条件であった.$u(x)$ と $v(x)$ が独立であると考えよう.反対の場合, それは $u(x)$ が両端点で境界条件を満たす場合に生起する, には「一般化されたグリーン関数」(generalized Green's function)が必要となる.厳密に言うならば, $u(x)$ と $v(x)$ が線型独立でない場合にはグリーン関数は存在しない.$\lambda=0$ が斉次な微分方程式の固有値である場合にも同様なことが言える.しかし「一般化されたグリーン関数」は定義することが出来る.この状況は Legendre 方程式で生起するが, そのことは Courant and Hilbert や他の文献で議論されている.$u(x)$ と $v(x)$ が独立である場合, 次のロンスキアンが得られる:
このときの $A$ は定数である.式(23)はときどき「アーベルの公式」と呼ばれる.沢山の例はベッセル関数とルジャンドル関数に関連して出現する.さて式(21)から, 次を定義する:
明らかにこれらは式(20)を満たしている.式(19)に代入すると次のグリーン関数を得る:
このとき $G(x,t)=G(t,x)$ が成り立つことに注意する.これは前述した「対称特性」である.これの物理的解釈は, 伝搬関数の「相反定理(可逆定理)」(reciprocity principle)により与えられる.すなわち $t$ での原因が $x$ で起こす効果は $x$ での原因が $t$ で起こす効果と同じである.静電磁気学からの類推から, これは明らかな事である.伝搬関数は, 2点間の距離の大きさ
だけに依存するのだった.
グリーン関数積分 - 微分方程式
$G(x,t)$ を構築したけれども, この新たなグリーン関数 $G$ を用いた積分(18)が, まさに元の微分方程式(13)の解であることを示す仕事がまだ残っている.直接代入することでそれを行う.式(25)の $G(x,t)$ を用いるとき, 式(18)は次となる:
これを微分すると,次を得る:
ただし定義特性[ 3 ] の「端点での微分はゼロとなる:$y'(a)=y'(b)=0$」 ことを用いている.
2次微分は次となる:
式(23)から上式の第3項は $-f(x)/p(x)$ と出来るので,
さて, これらを式(14')に代入すると次が得られる:
ここで $u(x)$ と $v(x)$ は斉次な Sturm-Liouville 方程式を満たすように選ばれていたので「カギ括弧内の要素はゼロ」であり, 積分項はゼロとなることに注意する.$f(x)$ を移項する(transpose)と, 式(13)が成立することが分かる.
「 $y(x)$ が要求された境界条件を満たしていること」もチェックされるべきである.定積分は定数であるから, 点 $x=a$ で次が言える:
ここで $u(x)$ が次式を満たすように選ぶ:
これに定数 $c$ を掛け合わせ, 式(30)と式(31)の結果を利用するならば $y(x)$ もやはり式(32)を満たすことが分かり, 定義特性(Ⅲ)が成り立つことが示される:
これは「斉次な」(homogeneous)境界条件の有用性の例証である.すなわち規格化が問題とならないのである.量子力学の問題では, 波動関数の境界条件は多くの場合, 式(32)に等価な次のような比で表現される:
この利点は波動関数を規格化する必要がない (規格化定数を$C=1$に出来る) ことである.
以上を要約すると, まず式(18)が得られた:
この $y(x)$ は式(13)の微分方程式
を満たし, かつ「境界条件」を満たす.その境界条件はグリーン関数 $G(x,t)$ へ組み込まれるのであった.
基本的に我々が行ったのは, 斉次な Sturm-Liouville 方程式の解を用いて非斉次な微分方程式の解を構築することである.式(3)の非斉次Helmholtz方程式がその実例であった.解は, 重み関数 $\rho(\mb{r}_2)$ と式(3)に対応する式(4)の斉次方程式の解の組み合わせとなる:
式(18)の $y(x)$ は, 実は微分方程式(13)の「特殊解」(particular solution)である.境界条件 ( 端点 $a,b$ で $\alpha y(a)+\beta y'(a)=0$及び$\alpha y(b)+\beta y'(b)=0$ ) が, 斉次方程式の解を付加することを許さない.(一般に, 非同次線形微分方程式の一般解は, 対応する同次方程式の一般解と非同次方程式の特解の和に等しいのであった).実際の物理問題では, たぶん両方の型の解が存在するであろう.例えば電磁気学では, ポアソン方程式のグリーン関数解は, ある定まった電荷分布によって作られるポテンシャルを提供する.さらに, 外場が印加されるかも知れない.それらは斉次方程式, すなわちラプラス方程式の解によって表現される.