電磁気学に於けるゲージ変換
前の記事と同じく, 「超伝導入門」の § 1. 2. 4 で「波動関数を振幅と位相に分けて表わすことによる議論」を理解するために, J.J. Sakurai の § 2.6 「電磁気学に於けるゲージ変換」の部分を抜粋してまとめておく.
電磁気学に於けるゲージ変換
時間に依らないスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャル$\phi(\mathbf{x})$ 及び $\mathbf{A}(\mathbf{x})$ から導くことの出来る電場と磁場を考える: $ \def\bra#1{\langle#1|} \def\ket#1{|#1\rangle} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\PKB#1#2{|#1\rangle\langle #2|} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} \def\mfrac#1#2{\frac{#1}{#2}} \def\reverse#1{\frac{1}{#1}} $
電磁場中に在る電荷 $e$ の粒子を表わすハミルトニアンは, 古典物理学から次のようになる:
ただし電子では $e<0$ である.すなわち $-e$ で置き換えることになるので注意する.量子力学では $\phi$ と $\mb{A}$ は, 荷電粒子の位置演算子 $\mb{x}$ の関数である.$\mb{p}$ と $\mb{A}$ とは交換しないので, 式\eqref{2} を解釈する際に, 少し注意が必要である.最も安全な手続きは次のように書くことである:
この形にすれば式\eqref{2}のハミルトニアンはエルミート的である.
次に $\phi$ と $\mb{A}$ が存在するときのシュレディンガーの波動方程式を調べる.式 \eqref{2} に於いて $\mb{p}\to-i\hbar\nabla$ の置き換えをしたものをハミルトニアンとすればよい.それを $\bra{\mb{x}^{'}}$ と $\ket{\alpha,t}$ の間で挟む.注意を払う必要がある唯一の項は次である:
このとき最初のカッコ内の $\nabla^{'}$ は, 第 2 因子中の $\mb{A}(\mb{x}^{'})$ と第 3 因子の $\BK{\mb{x}^{'}}{\alpha,t}$ の両方に作用することに注意する.その結果, $\psi(\mb{x}^{'},t)=\BK{\mb{x}^{'}}{\alpha,t}$ とすると次のような「シュレディンガー方程式」を得る:
これはポテンシャル $\phi$ と $\mb{A}$ が存在しない場合のシュレディンガー方程式に於いて, 次の置き換えをしたものになっていることに注意する:
そこで, 前のブログ記事の式 (3) の途中の $\nabla$ に上式 \eqref{6} の置き換えをすると, 「確率の流れ」の形が違う次のような「連続の方程式」が得られることが分かる:
また, 前のブログ記事と同様に波動関数 $\psi$ を確率密度 $\rho$ と位相因子 $S$ で表してみる:
すると, 前のブログ記事の式 (6) に相当した, 「確率密度の流れ」$\mb{j}^{'}$ の別の形の式が得られる:
この形は「超伝導や磁束の量子化などの議論をする際に便利である」ことが分かる.また, $\mb{j}^{'}$ の空間積分は, 前のブログ記事の式 (4) に於いて正準運動量 $\mb{p}$ を「運動学的運動量」*1で置き換えたものになる:
以上を基にして「超伝導入門」の § 1. 2. 4 の式 (1.13) を考えてみよう.前述のブログ記事のごとく, 波動関数として式 \eqref{6} の代わりに $\psi(\mb{r})=|\psi(\mb{r})|\,e^{i\phi(\mb{r})}$ としているので, 式 \eqref{6} の $\rho$ と $S$ は次とする:
粒子として「クーパー・ペア」を考える.「電子 1 個に対してクーパーペアは半分しか存在していない」ので, 対粒子の密度 $\rho^{*}$ を電子密度 $n=\rho$ で表わすと $n=2\rho^{*}$ となる.さらにクーパーペアの電荷 $e^{*}$ と質量 $m^{*}$ を $e^{*}=-2e$, $m^{*}=2m_e$ と置く.電流密度 $\mb{j}_e^{'}$ は, 確率の流れの式 \eqref{10} に電荷 $e^{*}=-2e$ を掛け合わせることで表わすことが出来る.さらに注意すべきは, 式 \eqref{10} 中の電荷 $e$ をそのまま用いてはいけないことだ!.それも $e^{*}=-2e$ で置き換える.以上を考慮すれば,「超伝導入門」の式 (1.13) を得ることが出来る:
*1: ファインマンによれば, 「力学的運動量」(dynamical momentum) $\mb{P}$ は「運動学的運動量」(kinetic momentum) $m\mb{v}$ と, $\mb{P}=m\mb{v}+(e/c)\mb{A}$ の関係があり, 「一般化運動量」または「正準運動量」に相当するのはこの力学的運動量の方であって, 量子力学に移行するとき演算子 $\hat{\mb{P}}=-i\hbar\nabla$ となるのであった.然しながら, J.J.Sakurai では$m\mb{v}$ の方を「力学的運動量」と呼び $\Pi=\mb{P}-(e/c)\mb{A}$ と表していたのであった.ここではファインマンの呼び方に従うことにする.