ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

Poisson分布と指数分布

第12章は「関数の確率」が経路積分によって議論できることを述べている.

その導入部で,次のような意味の文章が書かれてある:「離散的事象がランダムに起こっている例として,宇宙線が検出器に入射する場合がある.粒子が平均計測率$\mu$で降下すると,任意の長い期間$T$では$\mu T$個の粒子が観測されると期待される.その場合、(A)「短い時間$t$の間に$n$個の粒子を観測する確率」は次の「Poisson分布」で与えられる: $$ P(n,t) = \frac{(\mu t)^{n}}{n!}e^{-\mu t} \tag{12.1} $$ 他方、(B)「一つ粒子が入射してから次の粒子が入射するまでの間隔がある特定な時間$t$となる確率は幾らか?」と問うことも出来よう.しかし,実はこのような仕方で述べられた確率問題には答えられない!!.ただし、(C)「次の粒子が入射するまでの時間間隔が$t$に等しいかそれ以上である確率ならば$e^{-\mu t}$」と答えられる.従って我々が答えられるのは、(D)『生起率$\mu$のポアソン過程に於いては,「始めての入射が起こるまでの待ち時間分布」は同じパラメータ$\mu$を持つ次の「指数分布」で与えられる: $$ P(t)dt=\mu e^{-\mu t}dt \tag{12.2} $$ という事だけ』である.

上記(A)$\sim$(D)のことを,ダベンポート/ルート:「不規則信号と雑音の理論」などを参考書として求めて見たのでその概略を書いておく.

[1]. 実の不規則変数$x$について考える.この実線上の一点$X$を考え,不規則変数$x$が$X$以下である確率を値に持つ$X$の関数を不規則変数$x$の「確率分布関数」と言い$P(x\le X)$で表す.そして「確率密度関数」$p(X)$は,この確率分布関数$P(x\le X)$の微分として定義される: $$ p(X)=\frac{d}{dX} P(x\le X),\quad P(x\le X)=\int_{-\infty}^{X} p(x)\,dx \tag{1} $$ すると「不規則変数$x$が区間$(X-dX<x\le X)$に在る確率」は次となる: $$ p(X)dX = P(X-dX < x \le X) \tag{2} $$ 従って,連続的な不規則変数$x$が区間$(a< x\le b)$に存在する確率$P$は確率密度関数積分により与えられる: $$ P(a< x\le b)=\int_a^{b} p(x)\,dx,\quad\text{particularly}\quad \int_{-\infty}^{\infty} p(x)\,dx=1 \tag{3} $$ この定義により,連続的な不規則変数の確率分布関数はジャンプのない滑らかな曲線となるので,任意の点$x_0$では明らかに$P(x=x_0)=0$である. すなわち「連続的な不規則変数が任意の特定な値をとる確率はゼロである」.しかしこれは「この事象が起こり得ないことを意味するものではない」ことも明らかである.従って(B)が言えるのである.

[2]. ある時間間隔に於ける入射確率は,それ以前の入射確率と統計的に独立であると仮定して良い.また短い時間間隔$\Delta t$を考えるならば,入射確率はその時間間隔に比例するとして良いであろう.また短い時間間隔では2つ以上の入射はないと仮定出来る.よって, $$ P(1,\Delta t)=\mu\,\Delta t,\quad P(0,\Delta t)+P(1,\Delta t)=1 \quad\rightarrow\quad P(0,\Delta t)=1-\mu\,\Delta t \tag{4} $$ ただし$\mu$は平均入射率であることが,後で入射数の平均を考えると分かる.次に,長さ$t$の時間間隔に1個の入射もない確率$P(0,t)$を考える.長さ$t+\Delta t$の時間間隔を長さ$t$と長さ$\Delta t$の2つの部分に分けて考えると、$\Delta t$間の入射は$t$の間の入射とは独立と見做せるから次が言える: $$ P(0,t+\Delta t)=P(0,t)\,P(0,\Delta t) \tag{5} $$ 上の式(4)と式(5)とから次が言える: $$ \frac{P(0,t+\Delta t)-P(0,t)}{\Delta t}=-\mu\,P(0,t)\ \xrightarrow{\ \Delta t\to 0\ }\ \frac{d}{dt}P(0,t)=-\mu\,P(0,t) \tag{6} $$ この微分方程式境界条件$P(0,0)=1$として解くならば次を得る: $$ P(0,t)=\exp(-\mu\,t) \tag{7} $$ よって「有限時間$t$の間に全く入射がない確率は$e^{-\mu t}$である」ことが分かる.

[3]. 「前の入射から$T$時間後の微小時間$dt$中に次の入射が起こる確率」を$P_W(t)dt$とおく.すると「$T$まで全く入射が無いこと」と「$T$までに入射が起ること」とは互いに余事象の関係にあるので,次の関係が成り立つ: $$ P(0,T)=1-\int_{-\infty}^{T}P_W(t)\,dt=\int_{-\infty}^{\infty}P_W(t)\,dt-\int_{-\infty}^{T}P_W(t)\,dt=\int_{T}^{\infty}P_W(t)\,dt \tag{8} $$ この式は「時間$T$の間に全く入射が無い確率は,時間$T$以降に次の入射が起る確率に等しい」ことを述べている.この式(8)と式(7)とから, $$ P(0,T)=\int_{T}^{\infty}P_W(t)\,dt=\exp(-\mu T) \tag{9} $$ これは「時間$T$以降に次の入射が起る確率は $e^{-\mu T}$であること」すなわち(C)のことを述べている.

[4]. 次に時間間隔$t+\Delta t$の間に$n$個の入射が起こる確率$P(n,t+\Delta t)$を考える.ここで、$t$までに$n-1$個の入射があった場合に,次の$\Delta t$で1個の入射が起る条件付き確率を$P(n-1,t;1,\Delta t)$などと記すことにすると、$t$までの入射と区間$\Delta t$での入射は独立と考えて良いので, $$ P(n-1,t;1,\Delta t)=P(n-1,t)P(1,\Delta t) $$ が言える.また$\Delta t$の部分では,その間に1個の入射が有るかまたは1つも無いかの2つの場合しかあり得ない.従って,確率$P(n,t+\Delta t)$について次が言える: $$ \begin{align} P(n,t+\Delta t)&=P(n-1,t ; 1,\Delta t)+P(n,t ; 0, \Delta t)\notag\\ &=P(n-1; t)P(1,\Delta t)+P(n,t)P(0,\Delta t) \tag{10} \end{align} $$ これに式(4)の関係を入れ$\Delta t\to0$の極限をとると,次の漸化式の微分方程式が得られる: $$ \frac{d}{dt}P(n,t)+\mu P(n,t)=\mu P(n-1,t) \tag{11} $$ 境界条件は$P(n,0)=0$であるから,この1階線形微分方程式の解は次である: $$ P(n,t)=\mu e^{-\mu t}\int_0^{t} e^{-\mu s}\,P(n-1,s)\,ds,\quad \text{where}\quad P(0,t)=e^{-\mu t} \tag{12} $$ この結果を$n=1$の場合から順番に求めることで最終的に次を得る: $$ P(n,t)=e^{-\mu t}\frac{(\mu t)^{n}}{n!},\quad n=0,1,2,\dotsb \tag{13} $$ このようにして「時間間隔$t$の間に$n$個の入射が起こる確率はPoisson分布で与えられる」こと,すなわち(A)が示された.

[5]. 式(8)を微分すると次が得られる: $$ P_W(T)=-\frac{d}{dT} P(0,T),\quad \text{where}\quad P(0,T)=e^{-\mu T} \tag{14} $$ すると「$t$時間後の微小時間$dt$中に次の入射が起こる時刻$t_w$が入る確率」は次のようにして求められる: $$ P(t-dt<t_W< t)=P_W(t)\,dt = -\frac{d}{dt}P(0,t)\,dt=-\frac{d}{dt} e^{-\mu t}\,dt=\mu e^{-\mu t}\,dt \tag{15} $$ これを「指数分布」と言う.これは「次の入射が起こるまでの待ち時間$t$がパラメータ$\mu$の指数分布に従うこと」,すなわち(D)を示している: $$ P_W(t)dt=\mu\,e^{-\mu t}\,dt \tag{16} $$

確率・統計は苦手なのでここまで求めるのに大変苦労した.特に指数分布とポアソン分布の違いを理解するのに手こずった. この指数分布とポアソン分布とは混同し易いようで、Wikipediaにもその注意を記したサイトへのリンクがあるようだ.それによると,

ポアソン分布は「単位時間当たりの生起確率」を示し、指数分布は「事象の生起間隔の確率」を示す.

とのことである.

光子計数の統計に対するマンデルの公式について

前の記事に関連して参考書を調べていて気になった事柄を記しておく.

エミール・ウォルフ:「光のコヒーレンスと偏光理論」の§7.5 光のゆらぎの光電検出に関するマンデルの理論 ,の中で「マンデルの公式」が示されている.

直線偏光をした入射光が、ゆらぎのある「複素解析信号」: $$ V(t)=\int_0^{\infty} u(w)\,e^{-i\omega t}\,d\omega \tag{1} $$ によって表現されると仮定する.この光が光電検出器に入射する場合、検出器内で電子が時間間隔$(t,t+T)$の範囲内で放出される確率$P(t)\Delta t$は、瞬時強度$I(t)=V^{*}(t)V(t)$に比例すると考えられる: $$ P(t)\Delta t = \alpha I(t)\Delta t \tag{2} $$ ただし$\alpha$は光検出器の量子効率を表す定数である.このとき、$n$個の電子が時間間隔$(t,t+T)$の範囲内で放出される確率は「ポアソン分布」になる事が示される: $$ p(n,t,T)=\frac{1}{n!}[\alpha W(t,T)]^{n}\,e^{-\alpha W(t,T)} \tag{3} $$ ただし$W(t,T)$は、検出器に入射する光の時間間隔$(t,t+T)$に渡る積分強度である: $$ W(t,T)=\int_t^{t+T} I(t')\,dt' \tag{4} $$ この式(3)が「マンデルの公式」である .因みに、この式はファインマン:「量子力学経路積分」の式(12.1)に相当している.

この「マンデルの公式」の証明が巻末の付録に載っている.その中の式(4)をいつものようにMathematicaを使って確かめようとしたのだが、結果は少し違うようであった.ただし証明の議論には全く影響しない瑣末な事でここで敢えて指摘するべきものではない.でも一応は報告しておこうと思う.

式(4)は次のようになっている: $$ \begin{align} \prod_{i=0}^{T/\Delta t} \Bigl[1-\alpha I(t_i)\Delta t\Bigr]&=1-\left[\sum_{i=0}^{T/\Delta t}\alpha\,I(t_i)\Delta t \right]\notag\\ &+\frac{1}{2!}\left[\sum_{i=0}^{T/\Delta t}\alpha\,I(t_i)\Delta t \right]^{2}-\frac{1}{2!}\sum_{i=0}^{T/\Delta t}\alpha^{2}\,I^{2}(t_i)(\Delta t)^{2} \notag\\ &-\frac{1}{3!}\left[\sum_{i=0}^{T/\Delta t}\alpha\,I(t_i)\Delta t \right]^{3}+\frac{1}{3!}\sum_{i}\sum_{j}\alpha^{3}\,I(t_i)\,I^{2}(t_j)(\Delta t)^{3} \notag\\ &+\dotsb \tag{5} \end{align} $$ $\Delta t\to 0$のとき、上式の$1$とカッコ$[\dotsb]$の付いた項たちをまとめたものは、次の左辺の指数関数の級数展開になっていることは明らかだ: $$ \exp\left[-\sum_{i=0}^{T/\Delta t} \alpha\,I(t_i)\,\Delta t\right]=1-\left[\sum_{i=0}^{T/\Delta t}\alpha\,I(t_i)\Delta t \right] +\frac{1}{2!}\left[\sum_{i=0}^{T/\Delta t}\alpha\,I(t_i)\Delta t \right]^{2}-\dotsb $$ そして、残りの項たちは$\Delta t$について2次以上であるから$\Delta t\to 0$の極限では高次の無限小として無視できる.問題はその無視できる部分の$\Delta t$の3次の項についてである.残りの項たちをMathematicaで調べて見ることを、例えば次のように行って見た:

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従って、どうやらそれは次のように修正した方が良いのではと思われた (いつもの様に間違っているかも知れないが): $$ \begin{align} &\frac{1}{3!}\sum_i\sum_j \alpha^{3}\,I(t_i)\,I^{2}(t_j)(\Delta t)^{3}\notag\\ &\rightarrow\quad \frac{1}{3!}\sum_i \alpha^{3}\,I^{2}(t_i)(\Delta t)^{3}+\frac{1}{2}\sum_{i\ne j} \alpha^{3}\,I(t_i)\,I^{2}(t_j)(\Delta t)^{3} \tag{6} \end{align} $$ 再度述べておくが、これは証明の議論には全く影響のない瑣末な問題である!!.

誰かさんの人生の問題みたいだ?!〜〜〜〜.

(追加) 物理屋さんが使う数学は,数学者さんのそれに比べると少しいい加減な議論をしている(良い加減の議論でもある?)ことがあるようだ.数学の出来ない者にとっては数学者の書いた本はとても読めないが,物理屋さんの本なら何とか追うことが出来るので,購入するのはそう言う本だけである.これは数学者がちょっと見るとまずいなと思う式に出会うこともある.例えば,ある経路積分に関係した洋書に次のような記述があった:

The operators $$ R=\left(\begin{array} {ccccc} \ddots & & & & 0 \\ 1 & 0 & & & \\ & \ddots & \ddots & & \\ & & 1 & 0 & \\ 0 & & & \ddots & \ddots \end{array}\right) ,\quad L=\left(\begin{array}{ccccc} \ddots & \ddots & & 0\\ & 0 & 1 & & & \\ & & \ddots & \ddots & \\ & & & 0 & 1 \\ 0 & & & & \ddots \end{array}\right) $$ shift the particle's position to the right and left respectively by the amount $h$. Obviously, $L=R^{-1}$ and thus $RL=LR$. This clarifies the structure of the operator $P$ and its powers. $\dotsb\dotsb$

「転置行列」なのに「逆行列」としている?!.従って数学的には$RL=LR$は言えない?!と思われる。しかしよく読んで見ると,これは「初期確率分布$p$」に作用する「演算子」と考えているのであった.のでやはり正しいようだ!!!.wxMaximaで確認するならば例えば次のようだ:

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ただし厳密に言うならば、端点に要素が有る,例えば $p=[0.5,0,0,0,0,0.5]^{t}$ の場合には,境界効果で正しい振舞いをしない.と神の声が教えてくれました.学生さんたちは,大事だと思う論文や本の中の式たちは,なるべく自分で"慎重に"確認して行く方が良いと思いました.うっかり八兵衛ではだめだ〜〜〜.

式(5.17)について

約1ヶ月ぶりに書く記事である.今は第12章「確率論に於ける諸問題」に取り組んでいるのだが、学生時代から確率・統計は非常に苦手なので、例によって式を理解するのに大分苦労している.そのために多くの参考書を見ながら再勉強している訳である. その中で例えば、H.P.スウ:「フーリエ解析」(これは確率論の本ではないですね)を読んでいた.そのとき、以前の事がフーリエ変換に関係している事に気付いたので報告しておこう.

第5章の式(5.17)は次である: $$ \int_{0}^{\infty} dt\,e^{i\omega t}=\lim_{\varepsilon\to0}\frac{i}{\omega+i\varepsilon}=\mathrm{P.P.}\, \left(\frac{i}{\omega}\right)+\pi\,\delta(\omega) \tag{5.17} $$ この式(5.17)を証明するのには複素関数論を勉強する必要があると思われる.しかしこの式は、次の「ヘビサイドの単位関数」または「単位階段関数」: $$ u(t)=\begin{cases} 1 & t>0 \\ 0 & t<0\end{cases} \tag{1} $$ のフーリエ変換に等価な表現と見做すことが可能であろう: $$ \mathscr{F}[u(t)]=\int_{-\infty}^{\infty} u(t)\,e^{-j\omega t}\,dt=\int_0^{\infty} e^{-j\omega t}\,dt=\pi\,\delta(\omega)+\frac{1}{j\omega} \tag{2} $$ 従って「フーリエ解析」しか知らない方でも式(5.17)の意味は理解できるなと思いました.(工学系の本では、慣習として虚数単位に$i$の代わりに$j$を用いることは皆さんよくご存知のことですね).

ポーラロンとファインマン

J.T.Devreeseがポーラロンについての優れた概説を次に書いている:

Polarons, Review article in Encyclopedia of Applied Physics, $\mathbf{14}$, 383, (1996)

この論文は次のサイトから入手出来る:

https://arxiv.org/pdf/cond-mat/0004497.pdf

その§1.2.3にファインマンに関する記述があったので,その部分を翻訳して紹介しておくことにする.

1.2.3. All-coupling theory. Feynman path integral.

50年代の初めにH.Fröhlichはカルテックでセミナーを開いた.このセミナーで彼は弱結合のポーラロンの質量が$m^{*}=m_b/(1-\alpha/6)$と導出されることについて議論した.彼は「もし電子-フォノン結合が中間的な結合(特に$\alpha\approx 6$) の場合を正確に取り扱うことが出来るならば、超伝導の理論に新しい識見がもたらされるかも知れないと提案した.(これはBCS理論の前の出来事であり、1973年のファインマンの私的な会話から引用した).ファインマンはその聴衆の中に居た.彼は図書館へ行ってポーラロンに関するフレーリッヒの論文の内の1つ(Fröhlich,1954)を熟読した.そこで彼はポーラロン問題を量子力学のラグランジェ形式に公式化しそののちに場の振動子を除去することを思いついた.彼はこう述べている:「… Q.E.D.と全く同じ類推をし … その帰着として… 全ての経路について和を取る … 」.その経路積分の形は次のようなものである(Feynman, 1955): $$ \langle 0,\beta | 0,0 \rangle = \int \mathscr{D} \mathbf{r}(t)\exp\left[ -\frac{1}{2}\int_0^{\beta} \dot{\mathbf{r}}^{2}\,dt +\frac{\alpha}{2^{3/2}}\int_0^{\beta} dt \int_0^{\beta} ds\,\frac{e^{-|t-s|}}{|\mathbf{r}(t)-\mathbf{r}(s)|}\right] \tag{8a} $$ ただし$\beta=1/k_B T$である.式(8a)の経路積分は多大な直感的魅力を持っている.つまりその式は「時間が非局所的な,すなわち''遅延のある''相互作用は1粒子問題に等価であって,相互作用は電子とそれ自身の間のものだ」としているからだ.続けてファインマンは,経路積分に対して量子力学の変分原理をどのように適用させることが出来るか,そして式(8a)をシミュレートするための2次の(やはり時間が非局所的な)試行作用をどのように導入したらよいかを示した.(実際に述べたのはM.Barangerに対してである.彼は1953年から1955年までカルテックファインマンの助手を務めた). ファインマンが式(8a)によって導入した「フォノン場の除去」(一般的にはボソン場の除去)と言う手法は多くのことに応用出来ること,例えば散逸現象の研究などに応用できると分かったことは留意すべき事である. 経路積分に変分原理を適用すると,全ての$\alpha$についてポーラロンの自己エネルギーの上限値が得られた.それは弱い結合と強い結合で正確な極限値を与えた.ファインマンは弱い結合と強い結合を滑らかな内挿で繋なぐことが出来た(基底状態のエネルギーの場合について).ファインマン理論を漸近展開することは価値のあることである.弱い結合の極限では次式となる:

$$ \begin{align} &\frac{E_0}{\hbar\omega_{LO}}=-\alpha-0.0123\alpha^{2}-0.000064\alpha^{3}-\dotsb (\alpha\to 0) \tag{7a}\\ &\frac{m^{*}}{m_b}=1+\frac{\alpha}{6}+0.025\alpha^{2}+\dotsb (\alpha\to 0) \tag{7b} \end{align} $$

他の場合,すなわち強い結合の極限では、ファインマンはエネルギーが $$ \frac{E_0}{\hbar\omega_{LO}}\equiv \frac{E_{3D}(\alpha)}{\hbar\omega_{LO}}=-0.106\alpha^{2}-2.83-\dotsb (\alpha\to 0) \tag{9a} $$ そしてポーラロン質量が次となることを見出した: $$ \frac{m^{*}}{m_b}=0.0202\alpha^{4}+\dotsb (\alpha\to 0) \tag{9b} $$ 長年にわたってポーラロンのファインマンモデルは多くの点でこの問題に対する最も成功した研究法であり続けた.さらに注目すべきは, 数名の努力にも拘わらずこの経路積分による研究方法に相当するハミルトニアン形式は実現されていないと言う事である.[ 1つの研究(Yamazaki, K. 1983)では,理論の正式な構築がハミルトニアン形式で--非常に人工的な形でだが--再現された.しかし,エネルギーの上限を与える変分原理は見出せなかった ].…以下は略す…

表11-1の$E_{f}$をMathematicaで数値計算する

次の式(11.75)の$A$は、その中の積分を閉じた形で行うことが出来ない: $$ A=\frac{\alpha v}{\sqrt{\pi}}\int_0^{\infty} dt\,\frac{e^{-t}}{\sqrt{w^{2}t +\frac{v^{2}-w^{2}}{v}(1-e^{-vt})}} \tag{11.75} $$ 従って式(11.80)の基底エネルギー$E_0$の最小値も,きちんとした数式で表すことが出来ない: $$ E_0\le E_f = \frac{3}{4}\frac{(v-w)^{2}}{v}-A \tag{11.80} $$ ファインマンは章末の表11-1で、$\alpha$の各値に対する数値積分の結果を示している.それはT.D.Schultzがデジタルコンピュータを用いて行なったものである.これをMathematicaを用いて再現することは容易い事で、瞬時に結果を出力してくれる:

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ファインマンはまた,色々な場合での近似的な表式を示している.例えば,

  • $\alpha$が小さい場合 ( $\alpha<5.8$で$w=0$の場合 )  $$ A=\alpha \sqrt{\frac{v}{\pi}}\int_0^{\infty} dt\,\frac{e^{-t}}{\sqrt{1-e^{-vt}}}=\frac{\alpha}{\sqrt{v}}\frac{\Gamma(1/v)}{\Gamma(1/2+1/v)} \tag{1} $$

  • $\alpha$が大きい場合 ( $\alpha>6$で$v\gg w$の場合 ) $$ A=\alpha\sqrt{\frac{v}{\pi}}\left(1+\frac{2\ln 2}{v}-\frac{w^{2}}{2v}\right) \tag{2} $$

しかしこれらの近似式を求めることは、Mathematicaを利用しても数学の素養の無い者にとっては逆に難しい事であった.

式(1)中の積分について、Mathematicaは少しの時間で次の結果を示してくれる:

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しかし式(2)の方はMathematicaを用いても明示的な形を求めることは出来ず、数値計算で確認出来ただけである.まず、ファインマンの記述に従って式(11.75)の根号内を$\varepsilon=w/v\ll 1$として展開して見た ( だいぶ怪しいが〜!).途中で分母に出現する$e^{-vt}$は、やはりファインマンの記述に従って微小量であるとして無視する近似を行なっている: $$ \begin{align} &\left\{ w^{2}t +\frac{v^{2}-w^{2}}{v}(1-e^{-vt}) \right\}^{-1/2}=v^{-1/2}\left\{ \varepsilon^{2}vt +(1-\varepsilon^{2})(1-e^{-vt}) \right\}^{-1/2}\notag\\ &\quad=v^{-1/2}(1-e^{-vt})^{-1/2}\left(1-\varepsilon^{2}+\frac{\varepsilon^{2}vt}{1-e^{-vt}}\right)^{-1/2}\notag\\ &\quad\approx \frac{1}{\sqrt{v}}\frac{1}{\sqrt{1-e^{-vt}}}\left(1-\frac{1}{2}\varepsilon^{2} vt\right) \tag{3} \end{align} $$ 従って、式(11.75)の$A$は近似的な展開により次のように書くことが出来た: $$ A=\alpha\sqrt{\frac{v}{\pi}}\left(\int_0^{\infty} dt\,\frac{e^{-t}}{\sqrt{1-e^{-vt}}}-\frac{1}{2}\left(\frac{w}{v}\right)^{2}v\int_0^{\infty} dt\,\frac{t\,e^{-vt}}{\sqrt{1-e^{-vt}}}\right) \tag{4} $$ この第1番目の積分は式(1)のそれと同じである.これが$(1+2\ln 2/v)$になることをMathematicaにより明示的に示すことは出来なかった.$v$を具体的に大きな値に設定して数値計算した両者の結果が一致することを確かめただけである:

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計算の達人だったファインマンは、どのようにして求めたのだろう〜〜?

第2番目の積分もやはりMathematicaで明示的に示すことは出来なかった.PolyGamma関数などという難しい関数が出現してしまい数学の分からない者には処理できなかったのである.

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一応は、Wikipediaや以下のサイトを参考にして挑戦してみたが見事に跳ね返されてしまったのであった:

Digamma Function -- from Wolfram MathWorld

Wolfram Language & System Documentation Center

そこで、やはり$v$に具体的な数値を与えて結果がほぼ$1$になることを確かめることしか出来なかった:

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従って、式(4)に以上のことを代入して無理矢理にだが(〜そしてだいぶ怪しいけれど〜)、式(2)となることを示すことが出来ただけであった.

もし学生さんなどで上記のサイトなどを参考にして式(2)を明示的に示すことが出来た方が居られたら、お知らせ頂くと有難いです.