ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

ポーラロンとファインマン

J.T.Devreese がポーラロンについての優れた概説を次に書いている:

Polarons, Review article in Encyclopedia of Applied Physics, $\mathbf{14}$, 383, (1996)

この論文は次のサイトから入手出来る:

https://arxiv.org/pdf/cond-mat/0004497.pdf

その § 1.2.3 にファインマンに関する記述があったので, その部分を翻訳して紹介しておくことにする.

1.2.3. All-coupling theory. Feynman path integral.

50年代の初めに H.Fröhlich はカルテックセミナーを開いた.このセミナーで彼は弱結合のポーラロンの質量が $m^{*}=m_b/(1-\alpha/6)$ と導出されることについて議論した.彼は「もし電子-フォノン結合が中間的な結合 ( 特に $\alpha\approx 6$ ) の場合を正確に取り扱うことが出来るならば, 超伝導の理論に新しい識見がもたらされるかも知れないと提案した.(これは BCS 理論の前の出来事であり, 1973年のファインマンの私的な会話から引用した ).ファインマンはその聴衆の中に居た.彼は図書館へ行ってポーラロンに関するフレーリッヒの論文の内の 1 つ ( Fröhlich,1954 ) を熟読した.そこで彼はポーラロン問題を量子力学のラグランジェ形式に公式化しそののちに場の振動子を除去することを思いついた.彼はこう述べている:「… Q.E.D. と全く同じ類推をし … その帰着として … 全ての経路について和を取る … 」.その経路積分の形は次のようなものである ( Feynman, 1955 ): $ \def\ket#1{|#1\rangle} \def\bra#1{\langle#1|} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} $

\begin{equation*} \BK{0,\beta}{0,0}= \int \mathscr{D} \mathbf{r}(t)\exp\left[ -\frac{1}{2}\int_0^{\beta} \dot{\mathbf{r}}^{2}\,dt +\frac{\alpha}{2^{3/2}}\int_0^{\beta} dt \int_0^{\beta} ds\,\frac{e^{-|t-s|}}{|\mathbf{r}(t)-\mathbf{r}(s)|}\right] \tag{8a} \end{equation*}

ただし $\beta=1/k_B T$ である.式 (8a) の経路積分は多大な直感的魅力を持っている.つまりその式は「時間が非局所的な, すなわち ''遅延のある'' 相互作用は1粒子問題に等価であって, 相互作用は電子とそれ自身の間のものだ」としているからだ.続けてファインマンは, 経路積分に対して量子力学の変分原理をどのように適用させることが出来るか, そして式 (8a) をシミュレートするための2次の ( やはり時間が非局所的な ) 試行作用をどのように導入したらよいかを示した.( 実際に述べたのは M.Baranger に対してである.彼は 1953 年から 1955 年までカルテックファインマンの助手を務めた).ファインマンが式 (8a) によって導入した「フォノン場の除去」( 一般的にはボソン場の除去 ) と言う手法は多くのことに応用出来ること, 例えば散逸現象の研究などに応用できると分かったことは留意すべき事である.経路積分に変分原理を適用すると, 全ての $\alpha$ についてポーラロンの自己エネルギーの上限値が得られた.それは弱い結合と強い結合で正確な極限値を与えた.ファインマンは弱い結合と強い結合を滑らかな内挿で繋なぐことが出来た ( 基底状態のエネルギーの場合について ).ファインマン理論を漸近展開することは価値のあることである.弱い結合の極限では次式となる:

\begin{align*} &\frac{E_0}{\hbar\omega_{LO}}=-\alpha-0.0123\alpha^{2}-0.000064\alpha^{3}-\dotsb (\alpha\to 0) \tag{7a}\\ &\frac{m^{*}}{m_b}=1+\frac{\alpha}{6}+0.025\alpha^{2}+\dotsb (\alpha\to 0) \tag{7b} \end{align*}

他の場合, すなわち強い結合の極限では, ファインマンはエネルギーが

\begin{equation*} \frac{E_0}{\hbar\omega_{LO}}\equiv \frac{E_{3D}(\alpha)}{\hbar\omega_{LO}}=-0.106\alpha^{2}-2.83-\dotsb (\alpha\to 0) \tag{9a} \end{equation*}

そしてポーラロン質量が次となることを見出した:

\begin{equation*} \frac{m^{*}}{m_b}=0.0202\alpha^{4}+\dotsb (\alpha\to 0) \tag{9b} \end{equation*}

長年にわたってポーラロンのファインマンモデルは多くの点でこの問題に対する最も成功した研究法であり続けた.さらに注目すべきは, 数名の努力にも拘わらずこの経路積分による研究方法に相当するハミルトニアン形式は実現されていないと言う事である.[ 1つの研究 (Yamazaki, K. 1983) では, 理論の正式な構築がハミルトニアン形式で -- 非常に人工的な形でだが -- 再現された.しかし, エネルギーの上限を与える変分原理は見出せなかった ].… 以下は略す …