ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

問題 5-13 の解答例

Problem 5-13

Discuss the possibility of interpreting $\phi_n(x)$ as a $\chi_{a, b, c, \dotsb}(x)$ function discussed in Sec. 5-2. That is, say $\phi^{*}_n(x)$ is the transformation function to go from the $x$ representation to a representation specified by $n$ ( energy representation ) . *1


まずは「変換関数」( transformation function ) について, 本文から要点を抜粋しておこう.

関数 $\chi_{a, b, c, \dotsb}(x)$ は,「系が $a, b, c,\dotsb$ で記述される状態に在るとき, 系が位置 $x$ に見出される確率振幅」である.そして,「特性関数」( characteristic function ) と呼んで来た関数 $\chi^{*}_{a,b,c,\dotsb}(x)$ は,「系が位置 $x$ に居るとき, 系が $a, b, c, \dotsb$ で特定される状態に見出される確率振幅」である.

もし系が状態 $f(x,y,z,\dotsb)$ に在るならば, 次式で定義される量 $F_{a, b, c,\dotsb}$ は,「系の物理量 $A$ の値が $a$, $B$ の値が $b$, 等々, で特定される状態に系が在ることを見出す確率振幅」である: $ \def\bra#1{\langle#1|} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} \def\mfrac#1#2{\frac{#1}{#2}} \def\reverse#1{\frac{1}{#1}} $

\begin{equation} F_{a,b,c,\dotsb}=\int_{-\infty}^{\infty} dx\int_{-\infty}^{\infty} dy\int_{-\infty}^{\infty} dz\,\dotsb\,\chi^{*}_{a, b, c, \dotsb} (x,y, z, \dotsb)\,f(x,y, z,\dotsb) \tag{5.36} \end{equation}

この関数 $F_{a, b, c,\dotsb}$ は, 状態の「$A, B, C,\dotsb$ 表示」と呼ばれ, 関数 $f(x,y, z,\dotsb)$ は, 状態の通例の「座標表示」または「$x, y, z,\dotsb$ 表示」である.このとき, 関数 $\chi^{*}_{a, b, c, \dotsb} (x, y, z, \dotsb)$ は「$x, y, z, \dotsb$ 表示」から「$A, B, C, \dotsb$ 表示」へ移る際の「変換関数」になっている.他方, $\chi_{a, b, c, \dotsb} (x, y, z,\dotsb)$ はその逆方向へ移る場合, すなわち「$A, B, C, \dotsb$ 表示」から「$x, y, z, \dotsb$ 表示」へ移る際の「変換関数」である.従って, 式 (5. 36) で与えられる変換の逆は次となる:

\begin{equation} f(x, y, z, \dotsb) =\sum_{a} \sum_{b} \sum_{c}\dotsb\ \chi_{a, b, c, \dotsb} (x, y, z, \dotsb)\,F_{a,b,c,\dotsb} \tag{5.37} \end{equation}

以上を基にして, 解答して行こう.


( 解答 ) ハミルトニアン $H$ が時間に依存せず, エネルギーが一定の状態を考える.このとき, 系の波動関数は時間に依存しないシュレディンガー方程式を満たす.§ 4.2 より, エネルギー準位 $E_n$ の定常状態の波動関数を $\phi_n(x)$ とし, これらは規格直交化されているとする:

\begin{equation} H\phi_n(x)=E_n\phi_n(x),\quad \int_{-\infty}^{\infty} dx\,\phi^{*}_n(x)\,\phi_m(x)=\delta_{n m} \tag{4.42,47} \end{equation}

一般の場合の波動関数 $f(x)$ は, このようなエネルギー固有関数 $\phi_n(x)$ の1次結合として表わすことが出来る:

\begin{equation} f(x)=\sum_{n=0}^{\infty} a_n\,\phi_n(x) \tag{4.48} \end{equation}

このときの係数 $a_n$ は, 上式の両辺に $\phi^{*}_m (x)$ を掛け合わせてから全ての $x$ について積分することで求めることが出来て次を得る:

\begin{align} \int_{-\infty}^{\infty} dx\,\phi^{*}_m(x)\,f(x)&=\int_{-\infty}^{\infty} dx\,\phi^{*}_m(x)\sum_{n=0}^{\infty} a_n\,\phi_n(x) =\sum_{n=0}^{\infty} a_n \int_{-\infty}^{\infty} dx\,\phi^{*}_m(x)\,\phi_n(x)\notag\\ &=\sum_{n=0}^{\infty} a_n \delta_{m n} = a_m \tag{4.49} \end{align}

すなわち,

\begin{equation} a_n=\int_{-\infty}^{\infty} dx\,\phi^{*}_{n}(x)\,f(x) \tag{4.50} \end{equation}

すると, 上の式 (4.48) と式 (4.50) とから, 次の方程式が成り立つと言える:

\begin{align} f(x)&=\sum_{n=0}^{\infty} a_n\,\phi_n(x)=\sum_{n=0}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty} dy\,\phi^{*}_n(y)\,f(y)\,\phi_n(x)\notag\\ &=\int_{-\infty}^{\infty} dy\,\left[ \sum_{n=0}^{\infty}\phi^{*}_n(y)\,\phi_n(x)\right] \,f(y)\tag{4.51}\\ \therefore&\quad f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}\phi_n(x)\int_{-\infty}^{\infty} dy\,\phi^{*}_n(y)\,f(y) \end{align}

この最終結果式 (1) に於いて

\begin{equation} \chi_n(x)=\phi_n(x), \quad F_n=\int_{-\infty}^{\infty} dy\,\phi^{*}_n(y)\,f(y) \end{equation}

とするならば,「式 (1) は式 (5.37) と同じ内容の式となっている」ことが分かる:

\begin{equation} f(x)=\sum_{n} \chi_n(x)\,F_n \end{equation}

よって, 式 (2) より 『$\phi_n(x)$ を $\chi_n(x)$ と解釈する』ならば, その場合, 『$\phi_n(x)$ は「エネルギー表示」から「$x$-表示」へ移る際の変換関数である』と言えるし, 『$\phi^{*}_{n}(x)$ は「$x$-表示」から「エネルギー表示」へ移る際の変換関数である』と言えることになる.

*1:原書および校訂版も $\phi_n(x)$ となってるが, 解答で示した議論では $\phi^{*}_n(x)$ が適当と思われたので修正した.注意するべし.