ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

Feynman checkerboard

問題 2-6 は「Feynman checkerboard」として今でも論文が書かれる問題のようだ.そこで解答を提示す前に、この問題の意義・内容をより理解する目的で、L.S.Schulmanが 「Techniques and Applications of Path Integration」(Dover Edition) にSupplements として書いている「Checkerboard path integral」の章の一部だけだが訳して提示しておこうと思う.L.S.Schulmanは,このFeynman checkerboard について共著論文を書いている.


Checkerboard path integral

空間が1次元$x$だけである場合を考える.その1次元空間中を運動する粒子に対するDirac方程式は次である:

 \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}}
\displaystyle
i\hbar \ppdiff{\psi}{t}=mc^{2}\sigma_x \psi - i c \hbar \sigma_z \ppdiff{\psi}{x}
\tag{38}

ただし$\psi$はカイラリティ振幅を成分とする2成分スピノルである(1次元ではスピンは存在しない).そして\sigma_x\sigma_yはPauliスピン行列である.$\ \psi$に対するプロパゲーター$G$は、$2\times2$行列であり空間と時間の関数である.すなわち、 $$ \psi(x,t)=\int dy\, G(x,t;y,0)\,\psi(y,0) $$ ファインマンは、$G$を計算する次のような方法を見出した:

$N$を固定し、FIG. 1 に示されているような経路の全てのソートを考える.すなわち$\varepsilon=t/N$として, 時刻 $k\varepsilon,\ (k=1,\dotsb,N)$ で向きを45°または135°に変えながら(すなわち速度$c$で)上向きにジグザグに進むことが出来るような経路を許可する.そのような経路の各々は $R$ 回の反転(スイッチ)を受けるとする.例えば、$G$の(++)要素は,図示されている様な点$(y,0)$を「右向きに」スタートし,「右向きで」点$(x,t)$に到着する経路の全てを対象とする.そしてそれらの経路に対して, 次の和を計算するのである: $$ \sum_{\text{Zig-Zag Paths}} \left(i\frac{t}{N}\frac{mc^{2}}{\hbar}\right)^{R} \tag{39} $$ $N\to\infty$のとき,この式(39)は$G_{++}$となる.図から, これらの経路はチェッカーのキング, またはチェスのビショップが許される動きである.そのため, この和はしばしば「チェカーボードまたはチェスボードの経路積分」と呼ばれる.しかし, これらの粒子は1つの直角方向へ動くだけであることが, ゲーム盤の駒とは違っている.

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$\quad $ 我々はこれをどう理解するべきであろうか? [ What are we to make of this? ].Feynmanはこれを1940年代に考案している.どうやらFeynmanは, それを重要なものとは考えなかったらしい.なぜなら, 彼がそれを公表したのは1965年に出版したHibbsとの共著本の中の練習問題としてだけだからである.彼は「私の目的は, 空間だけから出発してスピンを導出することだ」と, (私的にだが)述べている.従って、1空間次元に於ける彼の公式化には, すでに2成分を持った対象(object)が要求されていたのである.しかし同様な事を3次元で実行することが出来なかったとき, 彼は全ての研究を止めてしまった.

$\quad$ この考えが間違っている点を全て述べてみよう.まず、1空間次元のDirac方程式の2成分はスピンと全く関係がない.1次元ではスピンは存在しないからである.2成分はパリティに関連している.この見方をすると, 左または右へ進む経路は理に叶っているように思われる.実際, 3次元の場合にスピンが要請するのは2成分スピノルだけである.そして数を倍にするのはやはりパリティで, それにより通常の4-成分のDiracピノルが与えられるのである.次に私がこのアプローチを全く好ましくないと思う事は, 古典的な作用(action)が全く存在しないことである.恐らくFeynmanは$G$のうまい計算方法を見つけたであろうが, しかし, もし作用が存在しないならば, 彼の非常に有名な経路積分とそれが関係し得ないことは「明らか」である.そして最後の事柄, それは私が最もひどい批評 (most devastating observation) だなと思うことだが, $N\to\infty$の場合の$\Delta x$と$\Delta t$のスケーリングが間違っているという点である.経路の速度は光速$c$と考えると$\Delta x = c\Delta t$である.ただし$\Delta t=t/N$である.従って, $N\to\infty$のとき, $\Delta x / \Delta t \sim $一定, となる.これは非相対論的な経路積分とは劇的に対照的なことである.なぜなら, 非相対論的な経路積分の場合, $\Delta t$と$\Delta x$の2乗とが同じ大きさになるからである.より詳しく述べるならば,次となる: $$ \frac{\left(\Delta x \right)^{2}}{\Delta t} \sim \frac{\hbar}{m} \tag{40} $$ \hbar/m という量は, 拡散係数の類似物である.従って, 歩幅が$\Delta$のランダム・ウォークに於いて、$\Delta x,\,\Delta t\to 0$の極限のときに, ブラウン運動に対する拡散係数$D$が § 9 の式(9.6)に, $$ D=\frac{\Delta^{2}}{2\varepsilon}\equiv \frac{(\Delta x)^{2}}{2\Delta t} \sim Const. $$ となって出現し, そのとき比$D$は一定となるのである.結局,このことが密度$\rho$を次とする: $$ \rho = \frac{1}{\sqrt{4\pi D t}} \exp\left(-\frac{x^{2}}{2Dt}\right) \tag{1} $$ 他方, (非相対論的な)経路積分の場合の "密度" すなわち振幅$K$は, $$ K(x,t; 0,0) = \sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar t}}\exp\left(\frac{imx^{2}}{2\hbar t}\right) \tag{2} $$ よって, 因子$2$と$i$を除外すれば, $D$と\hbar/mとは同じ役割を持っている.この無視できない虚数 $i$ があるので, 式(40)には完全なイコールではない記号 $\sim$ が使われているのである.

$\quad$ Feynman の公式に戻り,明らかに大いなる補足をもって「私はなぜ間違ったのか」を これから述べようと思う?? (it is obvious that with so great a buildup I am about to tell you why I was wrong) .この問題のカギは, 正しい問題を問うことである.正しい質問とは,「式(39)中の和に重要な寄与をするのは, どのような大きさの $R$であろうか?」である.

これに答えるには, 反転数に従って和の項たちをグループ分けすることである.ある$N$が与えられたとき, 正確に$R$回の反転を持っているジグザグ経路の数を$\phi^{(N)}(R)$としよう.そして次とするのである: $$ G=\sum_{R} \phi^{(N)}(R) \left(i\frac{mc^{2}}{\hbar}\frac{t}{N}\right)^{R} \tag{41} $$ ただし$G$と$\phi^{(N)}(R)$は, 経路の向きをラベル付けする添字, すなわち$(\pm, \pm)$,を暗黙で持っているとする.$N$が同じであるときに, 量$\phi^{(N)}(R)(mc^{2}t/\hbar N)^{R}$を最大にする$R$を決定したい.組み合わせ論を少し用いると, 次を導出することは容易である: $$ \begin{align} &R_{max}=\frac{t}{\gamma}\frac{mc^{2}}{\hbar},\tag{42}\\ \text{where}\quad & \gamma=\frac{1}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}},\qquad v=\frac{b-a}{t} . \tag{43} \end{align} $$ 驚くことに, $R_{max}$は $N$には「依存しない」.式(42)を少しばかり眺めるならば, 時間を$\hbar/mc^{2}$を単位として測定したとき, 典型的な反転数はちょうど粒子の静止系での固有時になっていることが分かるであろう.それは, 光が粒子のコンプトン波長を横切るのに要する時間である.

これがこの問題の見方である.粒子は光速という猛スピードで突っ走る.それはいつでも方向転換できる.そしてちょうどそのときに大きな放射性サンプルを得, そしていつ何時でも核は崩壊できるのである.すなわち, 存在する崩壊率(a rate of decay)とちょうど同様な具合で 反転率(a rate of reversal)も存在するのである.どんなランダム過程の場合でも, ($N$を大きくして)時間をより細かくしても, 物理的な単位時間当たりの反転数または崩壊数は不変である.崩壊に伴う確率過程はポアソン過程であり, お馴染みの公式が存在する:

Prob(崩壊率 $r$ を持った過程で単位時間当たりに $k$ 個が崩壊する)\displaystyle =\frac{r^{k}}{k!} e^{-r}

正式に言うならば, Feynmanの1次元電子理論は一つの重要な, そして馴染みのある, 相違を持った過程である.即ち, 時間$dt$中の崩壊の確率は $r dt$ であるのに対して, 時間$dt$中の反転の確率振幅は $imc^{2}dt/\hbar$ であって, 「虚数単位$i$を持っている」という相違点を持っているのである!.これは式(40)の後で議論した「実-虚の対応性」に匹敵するものである (This parallels the real-imaginary correspondence) .

~~~ 以下は疲れたので省略します.~~~~~