ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

遷移振幅と遷移要素の違い

問題7-14について

原書に於ける問題7-14の問題文は次となっている:

Show that the transition amplitude of $(m/\epsilon)(x_{k+1}-x_k)f(x_{k+1})$ is equivalent to that of $(f\cdot p)$

ここの「遷移振幅」(transition amplitude)「遷移要素」(transition element)とした方がより適切ではないかと思った.「遷移振幅」と「遷移要素」の定義を以下に示してその理由とする.

遷移振幅と遷移要素

遷移振幅や遷移要素の定義とそれに関わる概念などをまとめておく.(間違いがありましたら,お教え頂くと有難いです.)

量子力学の第一原理と確率振幅

この節は「ファインマン物理学V」の§1-7から引用した文章である.

次が量子力学の第1原理*1である:

  1. 理想的実験に於いて,ある事象の起きる確率は「確率振幅」と呼ばれる複素数$\phi$の絶対値の2乗で与えられる.すなわち, $$ \begin{equation} P=\text{確率},\quad \phi=\text{確率振幅},\quad P=|\phi|^{2} \end{equation} $$
  2. ある事象が幾つか異なる仕方で起こり得るとき,その事象に対する確率振幅は,各々の仕方が単独で生起する場合の確率振幅の和となる.このとき干渉が起きる [ When an event can occur in several alternative ways, the probability amplitude for the event is the sum of the probability amplitudes for each way considered separately. There is interference: ] .すなわち,その過程の起きる確率$P_{12}$は $$ \begin{equation} \phi=\phi_1+\phi_2,\quad P_{12}=|\phi_1+\phi_2|^{2} \end{equation} $$
  3. ある実験が,実際に起こったのは一方または他方のどちらの仕方であったかが特定可能なやり方で実施される場合,その事象の生起確率$P$は,各々が単独で生起する確率の和となる.このとき干渉は失われてしまう [ If an experiment is performed which is capable of determining whether one or another alternative is actually taken, the probability of the event is the sum of the probabilities for each alternative. The interference is lost:].すなわち, $$ \begin{equation} P=P_1+P_2,\quad P_1=|\phi_1|^{2},\quad P_2=|\phi_2|^{2},\quad\text{and}\quad P\neq P_{12} \end{equation} $$

系の時間発展とプロパゲーター

これ以降の節は,「量子力学経路積分」などから要点を多少の修正を施してまとめたものである.

量子力学系の時間発展は次のように描かれる.初期時間$t_a$に於いて状態は波動関数$\phi(x_a,t_a)$で記述されるとしたとき,後の時刻$t_b$でこの元の状態は発展して次の状態$\psi(x_b,t_b)$となる: $$ \begin{equation} \psi(x_b,t_b)=\int_{-\infty}^{\infty} dx_a\,K(x_b,t_b\,;\,x_a,t_a)\,\phi(x_a,t_a) \label{p1} \end{equation} $$ このとき$K(x_2,t_2\,;\,x_1,t_1)$は「核」または「プロパゲーター」と呼ばれ,次式の経路積分として表される(ただし$A$は規格化のための因子である): $$ \begin{align} &K(b,a)=\int_a^{b}\mathscr{D}x(t)\,e^{iS[b,a]/\hbar},\label{p2}\\ &K(b,a)=\lim_{\varepsilon\to 0}\frac{1}{A}\idotsint \frac{dx_1}{A}\frac{dx_2}{A}\dotsb \frac{dx_{N-1}}{A}\,e^{iS[b,a]/\hbar},\\ &\quad\text{where}\quad S[b,a]=\int_{t_a}^{t_b} dt\,L(\dot{x},x,t),\quad \varepsilon=\frac{t_b-t_a}{N} \end{align} $$ 関係式\eqref{p1}は,経路積分の問題を考えるとき非常に有用であった!.

遷移振幅

上記の場合に,時刻$t_2$で系が状態$\chi(x_2)$に見出される「遷移確率」は次で与えられる: $$ \def\bra#1{\mathinner{\left\langle{#1}\right|}} \def\ket#1{\mathinner{\left|{#1}\right\rangle}} \def\braket#1#2{\mathinner{\left\langle{#1}\middle|#2\right\rangle}}\\ \begin{equation} \braket{x_2,t_2}{x_1,t_1}=\bra{\chi}\mathscr{U}(t,t_0)\ket{\phi}=\int_{-\infty}^{\infty} dx_2 \int_{-\infty}^{\infty} dx_1\,\chi^{*}(x_2)K(x_2,t_2\,;\,x_1,t_1)\phi(x_1) \label{p7} \end{equation} $$ すなわち,系が状態$\chi(x_2)$に見出される確率は$|\braket{x_2,t_2}{x_1,t_1}|^{2}$であると言える.この時の積分を状態$\phi(x)$から状態$\chi(x)$への「遷移振幅」と呼ぶ.ただし,このときの$\mathscr{U}(t,t_0)$は「時間発展演算子と呼ばれるユニタリー演算子である.この演算子$\mathscr{U}$は合成則を満たし,またその生成演算子ハミルトニアン$H$であることから,時間発展演算子$\mathscr{U}$はシュレディンガー方程式を満たすことが言える: $$ \begin{align} &\mathscr{U}^{\dagger}(t,t_0)\,\mathscr{U}(t,t_0)=1\\ &\mathscr{U}(t_2,t_0)=\mathscr{U}(t_2,t_1)\mathscr{U}(t_1,t_0),\qquad (t_2 > t_1 > t_0)\\ &\mathscr{U}(t_0+dt,t_0)=1-i\frac{H}{\hbar}dt\quad\rightarrow\quad i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\mathscr{U}(t,t_0)=H\mathscr{U}(t,t_0) \end{align} $$ また遷移振幅は,核として式\eqref{p2}を用いて「作用」$S$を導入するならば,次のように表すことも可能である: $$ \begin{equation} \bra{\chi}1\ket{\phi}=\int dx_2 \int dx_1 \int_{x_1}^{x_2} \mathscr{D}x(t)\,\chi^{*}(x_2)\,e^{iS[2,1]/\hbar}\,\psi(x_1) % 式(12) \label{p9} \end{equation} $$

摂動論に於ける遷移振幅

粒子がポテンシャル$V(x,t)$中を点$a$から点$b$まで運動する場合,そのときの粒子に対する核$K_V(b,a)$は次となる: $$ \def\mbraket#1{\mathinner{\left[#1\right]}} \def\lbraket#1{\mathinner{\left\{#1\right\}}} \begin{equation} K_V(b,a)=\int_{a}^{b}\mathscr{D}x(t)\,\exp\lbraket{\frac{i}{\hbar}\int_{t_a}^{t_b} dt\,\mbraket{\frac{m}{2}\dot{x}^{2}-V(x,t)}} % 式(13) \end{equation} $$ ただしポテンシャル$V(x,t)$は小さいと見做せると仮定する.すると指数部分をテイラー展開することで上式は次のように書ける: $$ \begin{equation} K_V(b,a)=K_0(b,a)+K^{(1)}(b,a)+K^{(2)}(b,a)+\dotsb \label{p3} \end{equation} $$ ただし$d\theta=dxdt$とすると $$ \begin{align} \def\sbraket#1{\mathinner{\left(#1\right)}} K_0(b,a)&=\int_a^{b}\mathscr{D}x(t)\,\exp\sbraket{\frac{i}{\hbar}\int_{t_a}^{t_b}dt\,\frac{m\dot{x}^{2}}{2}}\\ K^{(1)}(b,a)&=-\frac{i}{\hbar}\int_a^{b}\mathscr{D}x(t)\,\exp\sbraket{\frac{i}{\hbar}\int_{t_a}^{t_b}dt\,\frac{m\dot{x}^{2}}{2}}\int_{t_a}^{t_b} ds\,V(x(s),s)\notag\\ &=-\frac{i}{\hbar}\int_{t_a}^{t_b}dt_c \int_{-\infty}^{\infty} dx_c K_0(b,c)V(c)K_0(c,a)\label{p4}\\ %式p4 K^{(2)}(b,a)&=-\frac{1}{2\hbar^{2}}\int_a^{b}\mathscr{D}x(t)\,\exp\sbraket{\frac{i}{\hbar}\int_{t_a}^{t_b}dt\,\frac{m\dot{x}^{2}}{2}}\notag\\ &\qquad\times \int_{t_a}^{t_b} ds\,V(x(s),s)\int_{t_a}^{t_b} du\,V(x(u),u)\notag\\ &=\left(-\frac{i}{\hbar}\right)^{2}\int d\theta_c \int d\theta_d K_0(b,c)V(c)K_0(c,d)V(d)K_0(d,a)\label{p5} % 式p5 \end{align} $$ この時の非摂動核$K_0(b,a)$は,無摂動ハミルトニアンの固有関数$\phi_n(x)$と固有エネルギー$E_n$を用いて, $$ \begin{equation} K_0(b,a)=\sum_n\phi_n(x_2)\phi_n^{*}(x_1)\,\exp\mbraket{-i\frac{E_n}{\hbar}(t_2-t_1)} \end{equation} $$ と展開することが可能である.これを例えば式\eqref{p4}や式\eqref{p5}などに代入すると,式\eqref{p3}の摂動を受けた核$K_V(b,a)$は最終的に次の形に書ける: $$ \begin{equation} K_V(b,a)=\sum_n\sum_m \lambda_{mn} (t_2,t_1)\,\phi_m(x_2)\phi_n^{*}(x_1) \label{p6} \end{equation} $$ このときの係数$\lambda_{mn}$も「遷移振幅」と呼ばれ,「系が初期に状態nに在る場合に,時刻$t_2$に於いて状態mに見出される振幅」である.この$\lambda_{mn}$を摂動ポテンシャル$V$のベキで展開すると次が得られる: $$ \begin{equation} \lambda_{mn}=\delta_{mn}\exp\mbraket{-i\frac{E_n}{\hbar}(t_2-t_1)}+\lambda_{mn}^{(1)}+\lambda_{mn}^{(2)}+\dotsb \end{equation} $$ ただし$\lambda_{mn}^{(1)}$などは $$ \begin{align} \lambda_{mn}^{(1)}&=-\frac{i}{\hbar}\int_{-\infty}^{\infty}dx_3\int_{t_1}^{t_2}dt_3\phi^{*}_m(x_3)V(x_3,t_3)\phi_n(x_3)\exp\mbraket{\frac{i}{\hbar}\lbraket{E_m(t_3-t_2)-E_n(t_3-t_1)}}\notag\\ &=-\frac{i}{\hbar}\exp\sbraket{-i\frac{E_m}{\hbar}t_2}\exp\sbraket{+i\frac{E_n}{\hbar}t_1}\int_{t_1}^{t_2} dt_3 V_{mn}(t_3)\exp\mbraket{i\frac{(E_m-E_n)}{\hbar}t_3} \end{align} $$ であり,またこの式中の$V_{mn}$は「$V$の行列要素」と呼ばれ,次で定義される: $$ \begin{equation} V_{mn}(t_3)=\int_{-\infty}^{\infty} dx_3\,\phi^{*}_m(x_3)\,V(x_3,t_3)\,\phi_n(x_3) \end{equation} $$ 「式\eqref{p6}中の$\lambda_{mn}$が式\eqref{p7}の$\langle x_2,t_2|x_1,t_1\rangle$と一致すること」は,ファインマンの問題6-15になっている.出来れば後で示したいと思う.

遷移要素

ある物理量に相当する汎関数$F[x(t)]$の「遷移要素」を次で定義する: $$ \def\bra#1{\mathinner{\left\langle{#1}\right|}} \def\ket#1{\mathinner{\left|{#1}\right\rangle}} \begin{equation} \langle F\rangle_S\equiv \bra{\chi}F\ket{\phi}_S=\int dx_2\int dx_1\int_{x_1}^{x_2}\mathscr{D}x(t)\,\chi^{*}(x_2)F[x(t)]\,e^{iS/\hbar}\phi(x_1) \label{p10} \end{equation} $$ そして,例えば「$m\dot{x}$の遷移要素」を上式から計算すると,その結果は$\chi^{*}$と$\phi$の間に「運動量演算子」$\hat{p}=(\hbar/i)\partial/\partial x$を置いた次式に相当したものとなる: $$ \begin{equation} \bra{\chi} m\dot{x}\ket{\phi}=-\frac{im}{\hbar}\int \chi^{*}(xH-Hx)\phi\,dx=\int \chi^{*}\frac{\hbar}{i}\frac{\partial \phi}{\partial x}\,dx \end{equation} $$

ランダウ:「量子力学」の§11によれば,「量子系の座標をまとめて$x$とすると,状態nから状態mへの「遷移に対応する行列要素」$f_{mn}(t)$は次である: $$ \begin{equation} f_{mn}(t)=\int \psi_m^{*} \hat{f}\psi_n\,dx=\bra{m}f\ket{n} \label{p8} % 式(27) \end{equation} $$ 演算子$\hat{f}$が時間を顕に含まないない場合には,行列要素$f_{mn}(t)$の時間依存性は波動関数$\psi_n$の時間依存性によって決められる. $$ \begin{equation} \psi_n=\exp\sbraket{-i\frac{E_{n}}{\hbar}t}\phi_n(x),\quad \rightarrow\ f_{mn}(t)=f_{mn}\exp\sbraket{i\omega_{mn} t},\quad \omega_{mn}=\frac{E_m-E_n}{\hbar} \end{equation} $$ この時の$\omega_{mn}$は状態nと状態mの間のいわゆる「遷移振動数」であり,$f_{mn}$は量$f$の普通に用いられている時間に依存しない行列要素である.

また式\eqref{p8}をディラックは,’’1次演算子$f$あるいは力学変数$f$の「代表」”と呼んでおり,それらは「行列の要素」を構成すると言っている.

以上から,ファインマンの言う「遷移要素」$\langle F\rangle$とは,量子力学の「遷移に対応する行列要素」$F_{mn}$に相当する量であると言えるであろう(と思うのだが?)

さらに,式\eqref{p9}と式\eqref{p10}とを比較するならば,「遷移振幅」は「遷移要素」に於いて$F=1$である特別な場合だ,と考えることが出来る.

✳️ マチュアが少ない教科書に目を通して判断するに,ディラックの「代表」(representative)は今の本には使われていないようだ.同様に,ファインマンの「遷移要素」(transition element)という術語も今は使われていないようなのだけれど?.手元の本にもWikiなどのネットにも姿が全く見えないからだ.専門家の間で「遷移要素」は使われているのか? をご存知の方がおられたらお教え頂けると有難いです.

*1:第一原理とは「他のものから推論することの出来ない命題であり,自然科学での第一原理は「近似や経験的なパラメータ等を含まない最も根本となる基本法則を指し,そのことを前提とすると自然現象を説明することが出来るもの」である.物理学で言うならば,もしある計算が確立された物理法則のレベルから直接的にスタートし経験によるモデルや適当なパラメータなどの仮定を用いていないとき,その計算は「第一原理に基づいている」と言われる.(WiKiから引用).