ポテンシャルとゲージ変換
問題3-10 の解答の準備の最後として,「ゲージ変換」について, J.J. Sakurai の§ 2.6 から文章を抜粋して述べておく.
一定のポテンシャル
古典力学では, ポテンシャルエネルギーの原点は物理的に任意に選ぶことが出来ることはよく知られていることである.これに比べて, 量子力学ではどのような状況になるであろうか?
あるポテンシャルの下での状態ケットの時間発展をシュレディンガー表示してみる.|α,t⟩|α,t⟩ を V(x) の下での状態ケットとし, ポテンシャルが ˜V(x)=V(x)+V0 であるときに相当する状態ケットを ¯|α,t⟩ としよう.ただし初期条件は t=t0 で両方のケットは共に |α⟩ であったとする.時刻 t での状態ケットは, 初期ケットに時間発展演算子を掛け合わせて得られるのあった.そこで, 各々の場合の時間発展演算子を U(t,t0) 及び ¯U(t,t0) とすると次が言える:
すなわち, ˜V の影響下でケットを計算すると位相因子が exp[−iV0(t−t0)/ℏ] だけ異なる時間依存性を示す.このとき, この変化は当然ながら波動関数に次の変化を及ぼす:
これは「ゲージ変換」と呼ばれる一群の変換の例である.
定常状態での時間依存性が exp[−iE(t−t0)/ℏ] であったから, 上記のことはエネルギーが E から E+V0 になることを意味している.しかし我々が観測する量はいつもエネルギー差に依っているから, 一般に観測量の期待値は, 世の中の全ての状態に共通因子 exp[−iV0(t−t0)/ℏ] が掛っても全く変わりがない.
次に参考として, 空間的には一様であるが時間依存性のある V0 の場合も考えておこう.この場合には上記の場合との類似性から次となる:
この式の物理的意味を述べるならば, V(x) の代わりに V(x)+V0(t) を用いるときには, 我々はエネルギーの原点を時事刻々新たに選ぶことになる.この場合, ポテンシャルの絶対的尺度は任意に選べるが, ポテンシャルの差は物理的に重要であり, それは実際に量子力学的干渉として検出することが出来る.その具体例がJ.J.Sakuraiに紹介されているので参照するべし.
電磁気学に於けるゲージ変換
より一般的なスカラーポテンシャル ϕ とベクトルポテンシャル A のゲージ変換は,
と書ける.この変換は
で与えられる E と B を不変に保つ.しかし時間に依存する場やポテンシャルを考えない場合のゲージ変換は次となる:
古典物理学では, 荷電粒子の軌跡といった観測可能な効果は, 用いるゲージ, すなわち採用した Λ の特別な選び方に依存しない.z-方向の一様な磁場 B=Bˆz 中にある荷電粒子を考える.この磁場は, A=(−12By,12Bx,0) から導くことが出来る.しかし次からも同様の磁場が導かれる:
この式(9)の形は, 式(8)のAから次とすることで得ることが出来る:
これはまさに式(7)の形をしている.どちらの A を用いても, 初期条件を与えたときの荷電粒子の軌跡は同じで螺旋である.すなわち xy-平面に投影すると一様な円運動であり, これを z-方向の一様な直線運動が重なったものである.しかし px 及び py を見ると結果は非常に異なる.式(9)を用いると px は運動の定数であるが, 式(8)を用いるとそうではない.一般に,「正準運動量はゲージ不変量ではない」.その数値は, 同じ物理的場面を扱っていても用いる特定のゲージに依存する.それはハミルトンの運動方程式
を思い出すことで分かることである.しかし「(p−ecA)はゲージ不変である!」ことは確かめることが出来る.
次に, 「経路積分ではどうなるか? 」を考えて見る.式(7)のゲージ変換, すなわち場やベクトルポテンシャルが時間依存しない場合を考えてみる:
このとき, 前の記事に書いた「ベクトルポテンシャルの存在は全ての振幅を指数関数の因子 だけ変化させる」という量子力学の原理 から, 位相因子は次のような変化を受けると言える: