巻末には Appendix : Some Useful Definite Integrals があるが, 校訂版 には次の4つの公式が追加されているので示しておこう.
$
\def\bra#1{\langle#1|}
\def\ket#1{|#1\rangle}
\def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle}
\def\PKB#1#2{|#1\rangle\langle #2|}
\def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle}
\def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}}
\def\odiff#1{\frac{d}{d #1}}
\def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}}
\def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}}
\def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}}
\def\mb#1{\mathbf{#1}}
\def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}}
\def\mfrac#1#2{\frac{#1}{#2}}
\def\reverse#1{\frac{1}{#1}}
$
\begin{align}
&\int_{-\infty}^{\infty} e^{i\omega t}\,dt = 2\pi \delta(\omega) \tag{A.9}\\
&\int_{0}^{\infty} e^{i\omega t}\,dt=\pi\,\delta_{+}(\omega)=\pi\,\delta(\omega)+\text{P.P.}\,\left(\frac{i}{\omega+i\epsilon}\right)
=\lim_{\epsilon\to 0+} \frac{i}{\omega +i\epsilon} \tag{A.10}\\
&\int \frac{d^{3}\mb{k}}{(2\pi)^{3}} f(\mb{k}) =\frac{1}{Vol} \sum_{\mb{k}} f(\mb{k}) \tag{A.11}\\
&\int_{t_{a}}^{t_{b}} dt\int_{t_{a}}^{t} ds\,f(t, s) = \int_{t_{a}}^{t_{b}} dt \int_{t}^{t_{b}} ds\, f(s, t)
\tag{A.12}
\end{align}
式 (A.9) はデルタ関数 の定義式の一つに過ぎない.式 (A.10) は本文の第 5 章の式 (5-17) である.また, 式 (A.11) は第 4 章の § 4-3 の式 (4-73) 下の式を書き直したものに過ぎない.
第 6 章以降では 2 重積分 が多く出現する.「公式 (A.12) は 2 重積分 をする際に便利に利用できる 」ようである.そこで, 公式 (A.12) が何故言えるのかについて, 簡単な証明のようなものを示しておくことにする.
微積 分の標準的な教科書では, 重積分 の章に「2 重積分 の実際の計算」に利用できる定理が示されているであろう.例えば, 田島一郎:「微分 積分 」( 培風館 ) § 4.2 には次のように書かれている:
2 重積分 の実際の計算には, それを 2 回の単積分 (1 変数関数の定積分 ) の計算に帰着させる次の定理が重要である.
定理 4. 6 $\quad \phi(x)$ 及び $\psi(x)$ が $[a,b]$ で連続で, つねに $\phi(x)\le \psi(x)$ であるとして, 次の領域 $D$ を考える ( 図 1 の左図を参照 ) :
\begin{equation}
D\ :\ a\le x \le b, \quad \phi(x) \le y \le \psi(x)
\label{1}
\end{equation}
$f(x,y)$ が式 (1) の領域 $D$ で連続ならば,
\begin{equation}
\iint_{D} f(x,y)\,dx dy = \int_{a}^{b} \left\{ \int_{\phi(x)}^{\psi(x)} f(x,y)\,dy \right\}\,dx
\label{2}
\end{equation}
式\eqref{2} の右辺を次のように書くことが多い.
\begin{equation}
\int_{a}^{b} \int_{\phi(x)}^{\psi(x)} f(x,y)\,dy\,dx,\qquad \int_{a}^{b}dx\int_{\phi(x)}^{\psi(x)} f(x,y)\,dy
\label{3}
\end{equation}
この後者の書き方は, 二つの単積分 の積を表わすものではないことに注意する必要がある.
$f(x,y)$ が図1の右図のような領域で連続の場合は次が成立する:
\begin{equation}
\iint_{D} f(x,y)\,dx dy = \int_{c}^{d} \left\{ \int_{\phi(y)}^{\psi(y)} f(x,y)\,dx \right\}\,dy
\label{4}
\end{equation}
(図 1) 積分 領域 $D$
この定理を, 次の図 2 のような領域に適用してみよう.
(図 2)
まず, 連続関数 $f(y,x)$ の領域 $B$ に於ける 2 重積分 を考えると, 式 \eqref{2} 及び式 \eqref{4} から,
\begin{equation}
\iint_{B} f(y,x)\,dx dy =\int_{a}^{b}dx\int_{y=x}^{b}dy\,f(y,x)=\int_{a}^{b}dy\int_{a}^{x=y}dx\,f(y,x)
\label{5}
\end{equation}
この最後の式に於いて, 変数の単なる書き換え $x\leftrightarrow y$ を行うと,
\begin{equation}
\int_{a}^{b}dy\int_{a}^{x=y}dx\,f(y,x)\quad\rightarrow\quad
\int_{a}^{b}dx\int_{a}^{y=x}dy\,f(x,y)
\label{6}
\end{equation}
これは単なる変数の呼び方の変更に過ぎないから積分 結果が変わらないことは明らかである.また, この結果は, 図 2 の領域 $A$ に於ける連続関数 $f(x,y)$ の 2 重積分 になっていることに注意する.以上の結果式\eqref{6} と式 \eqref{5} とから次が言える:
\begin{align}
\iint_{B} f(y,x)\,dx dy &=\int_{a}^{b}dx\int_{y=x}^{b}dy\,f(y,x)=\int_{a}^{b}dy\int_{a}^{x=y}dx\,f(y,x)\notag\\
&=\int_{a}^{b}dx\int_{a}^{y=x}dy\,f(x,y)=\iint_{A} f(x,y)\,dx dy
\label{7}
\end{align}
よって,
\begin{equation}
\int_{a}^{b}dx\int_{a}^{y=x}dy\,f(x,y)=\int_{a}^{b}dx\int_{y=x}^{b}dy\,f(y,x)
\label{8}
\end{equation}
これは式 (A.12) に等価である.
この公式を本文で利用した箇所が第6章にある.粒子がポテンシャル $V(x,t)$ 中を運動する場合の核 $K_{V}(b,a)$ は, もしそのポテンシャルが小さくて, 経路に沿っての $V(x,t)$ の時間積分 が $\hbar$ と比較して小さいならば, 式 (6-1) は次のように摂動展開することが可能である:
\begin{align}
K_V(b,a)&=\int_a^{b} \mathscr{D}x(t)\,\exp\left\{ \frac{i}{\hbar}\int_{t_a}^{t_b} dt\,\left( \frac{m}{2}\dot{x}^{2}-V(x,t)\right)\right\}
\tag{6-1}\\
&=K_0(b,a)+K^{(1)}(b,a)+K^{(2)}(b,a)+\dotsb, \tag{6-4}
\end{align}
ただし,
\begin{align}
\ K_0(b,a)&=\int_{a}^{b} \mathscr{D}x(t)\,\exp\left(\frac{i}{\hbar}\int_a^{b} \frac{m}{2}\dot{x}^{2}\right),\tag{6-5}\\
\ K^{(1)}(b,a)&=-\frac{i}{\hbar}\int_{a}^{b} \mathscr{D}x(t)\,\exp\left(\frac{i}{\hbar}\int_a^{b} \frac{m}{2}\dot{x}^{2}\right)
\int_{t_a}^{t_b} ds\,V(x(s),s),\tag{6-6}\\
\ K^{(2)}(b,a)&=-\frac{1}{2\hbar^{2}}\int_{a}^{b} \mathscr{D}x(t)\,\exp\left(\frac{i}{\hbar}\int_a^{b} \frac{m}{2}\dot{x}^{2}\right)
\int_{t_a}^{t_b} ds\,V(x(s),s)\int_{t_a}^{t_b} ds^{'}\,V(x(s^{'}),s^{'}),\tag{6-7}\\
&\qquad\qquad \vdots\notag
\end{align}
このとき, 二重散乱の振幅 $K^{(2)}$ は次のように書くことも出来た:
\begin{equation}
K^{(2)}(b,a)=\left(-\frac{i}{\hbar}\right)^{2}\int_{t_a}^{t_b}ds\int_{-\infty}^{\infty}dx_c \int_{s}^{t_b} ds^{'}
\int_{-\infty}^{\infty}dx_d\,K_0(b,c)V(c,d)V(d)K_0(d,a)
\tag{6-13}
\end{equation}
この式 (6-13) と式 (6-7) を比較すると因子 $1/2$ が一見省略されているように見える.しかし, これは時間変数 $t_c=s^{'}$ の積分 範囲を $t_a$ から $t_b$ ではなくて $t_d=s$ と $t_b$ の間に制限しているからである.この制限のために二重積分 の値は半分となるのである:
\begin{equation}
\int_{t_a}^{t_b}ds\int_{s}^{t_b} ds^{'}V[ x(s), s ]\,V[ x(s^{'}), s^{'} ]=\frac{1}{2}\int_{t_a}^{t_b}ds\int_{t_a}^{t_b} ds^{'}V[ x(s), s ]\,V[ x(s^{'}), s^{'} ]
\end{equation}
この関係を示すのに上述の公式 (A.12) が利用できるのである.
また, この公式に関連した例として, J.J. Sakurai : Advanced Quantum Mechanics § 4.2 の式 (4.48) を挙げておこう:
S行列として知られている演算子 を時間発展演算子 $U(t,t_0)$ を用いて次の様に定義する:
\begin{equation}
S=U(\infty,-\infty),\quad \Phi(t)=U(t,t_0)\Phi(t_0),\quad\rightarrow\quad \Phi(\infty)=S\,\Phi(-\infty)
\tag{4.34,35}
\end{equation}
$S$ 行列は次の様な冪に展開した形に書くことが出来る:
\begin{align}
S&=S^{(0)} + S^{(1)} + S^{(2)} + S^{(3)} + \dotsb\notag\\
&=1-i\int_{-\infty}^{\infty}dt_1\,H_I(t_1) + (-i)^{2}\int_{-\infty}^{\infty}dt_1\int_{-\infty}^{t_1}dt_2\,H_I(t_1)H_I(t_2) + \dotsb
\tag{4.36}
\end{align}
このとき $S^{(2)}$ に関する非常に重要な恒等式 を証明しておく:
\begin{align}
S^{(2)} &= (-i)^{2}\int_{-\infty}^{\infty} dt_1 \int_{-\infty}^{t_1} dt_2\,H_I(t_1)H_I(t_2)\notag\\
&= (-i)^{2}\int_{-\infty}^{\infty} dt_1 \int_{t_1}^{\infty} dt_2\,H_I(t_2)H_I(t_1)
\tag{4.48}
\end{align}
これを証明するために, 最初の形を積分 変数を交換して書き直す:
\begin{align}
&S^{(2)} = (-i)^{2}\int_{-\infty}^{\infty} dt_1 \int_{-\infty}^{t_1} dt_2\,H_I(t_1)H_I(t_2)\notag\\
&\xrightarrow{t_1 \leftrightarrow t_2} \
(-i)^{2}\int_{-\infty}^{\infty} dt_2 \int_{-\infty}^{t_2} dt_1\,H_I(t_2)H_I(t_1)
\tag{4.49}
\end{align}
この場合 $t_2$ を固定し $t_1$ について $-\infty$ から $t_2$ まで積分 することになる.そして次に $t_2$ について $-\infty$ から $\infty$ まで積分 する.これは, 「2次元的な $t_1 t_2$ 面に於いて下図 4-1 (a) に示すように, $H_I(t_2)H_I(t_1)$ を線分 $t_2=t_1$ より上の領域で積分 することを意味している.しかしながら, 図 4-1 (b) から式 (4.49) は等価的に次のように書くことが出来ることは明らかである:
\begin{equation}
S^{(2)} = (-i)^{2}\int_{-\infty}^{\infty} dt_1 \int_{t_1}^{\infty} dt_2\,H_I(t_2)H_I(t_1)
\tag{4.50}
\end{equation}
となり, 式 (4.48) は証明された.式 (4.48) の最初と最後の式形を形式 1 及び形式 2 と呼ぶことにする.
図 4-1