ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

付録:「役に立つ定積分」に追加された公式 (A.12) について

巻末には Appendix : Some Useful Definite Integrals があるが, 校訂版には次の4つの公式が追加されているので示しておこう.


$ \def\bra#1{\langle#1|} \def\ket#1{|#1\rangle} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\PKB#1#2{|#1\rangle\langle #2|} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} \def\mfrac#1#2{\frac{#1}{#2}} \def\reverse#1{\frac{1}{#1}} $

\begin{align} &\int_{-\infty}^{\infty} e^{i\omega t}\,dt = 2\pi \delta(\omega) \tag{A.9}\\ &\int_{0}^{\infty} e^{i\omega t}\,dt=\pi\,\delta_{+}(\omega)=\pi\,\delta(\omega)+\text{P.P.}\,\left(\frac{i}{\omega+i\epsilon}\right) =\lim_{\epsilon\to 0+} \frac{i}{\omega +i\epsilon} \tag{A.10}\\ &\int \frac{d^{3}\mb{k}}{(2\pi)^{3}} f(\mb{k}) =\frac{1}{Vol} \sum_{\mb{k}} f(\mb{k}) \tag{A.11}\\ &\int_{t_{a}}^{t_{b}} dt\int_{t_{a}}^{t} ds\,f(t, s) = \int_{t_{a}}^{t_{b}} dt \int_{t}^{t_{b}} ds\, f(s, t) \tag{A.12} \end{align}

式 (A.9) はデルタ関数の定義式の一つに過ぎない.式 (A.10) は本文の第 5 章の式 (5-17) である.また, 式 (A.11) は第 4 章の § 4-3 の式 (4-73) 下の式を書き直したものに過ぎない.

第 6 章以降では 2 重積分が多く出現する.「公式 (A.12) は 2 重積分をする際に便利に利用できる」ようである.そこで, 公式 (A.12) が何故言えるのかについて, 簡単な証明のようなものを示しておくことにする.

微積分の標準的な教科書では, 重積分の章に「2 重積分の実際の計算」に利用できる定理が示されているであろう.例えば, 田島一郎:「微分積分」( 培風館 ) § 4.2 には次のように書かれている:


2 重積分の実際の計算には, それを 2 回の単積分 (1 変数関数の定積分) の計算に帰着させる次の定理が重要である.

定理 4. 6$\quad \phi(x)$ 及び $\psi(x)$ が $[a,b]$ で連続で, つねに $\phi(x)\le \psi(x)$ であるとして, 次の領域 $D$ を考える ( 図 1 の左図を参照 ) :

\begin{equation} D\ :\ a\le x \le b, \quad \phi(x) \le y \le \psi(x) \label{1} \end{equation}

$f(x,y)$ が式 (1) の領域 $D$ で連続ならば,

\begin{equation} \iint_{D} f(x,y)\,dx dy = \int_{a}^{b} \left\{ \int_{\phi(x)}^{\psi(x)} f(x,y)\,dy \right\}\,dx \label{2} \end{equation}

式\eqref{2} の右辺を次のように書くことが多い.

\begin{equation} \int_{a}^{b} \int_{\phi(x)}^{\psi(x)} f(x,y)\,dy\,dx,\qquad \int_{a}^{b}dx\int_{\phi(x)}^{\psi(x)} f(x,y)\,dy \label{3} \end{equation}

この後者の書き方は, 二つの単積分の積を表わすものではないことに注意する必要がある.

$f(x,y)$ が図1の右図のような領域で連続の場合は次が成立する:

\begin{equation} \iint_{D} f(x,y)\,dx dy = \int_{c}^{d} \left\{ \int_{\phi(y)}^{\psi(y)} f(x,y)\,dx \right\}\,dy \label{4} \end{equation}

f:id:clrice9:20190719085208p:plain:w600
(図 1) 積分領域 $D$


この定理を, 次の図 2 のような領域に適用してみよう.

f:id:clrice9:20190718182258p:plain:w500
(図 2)

まず, 連続関数 $f(y,x)$ の領域 $B$ に於ける 2 重積分を考えると, 式 \eqref{2} 及び式 \eqref{4} から,

\begin{equation} \iint_{B} f(y,x)\,dx dy =\int_{a}^{b}dx\int_{y=x}^{b}dy\,f(y,x)=\int_{a}^{b}dy\int_{a}^{x=y}dx\,f(y,x) \label{5} \end{equation}

この最後の式に於いて, 変数の単なる書き換え $x\leftrightarrow y$ を行うと,

\begin{equation} \int_{a}^{b}dy\int_{a}^{x=y}dx\,f(y,x)\quad\rightarrow\quad \int_{a}^{b}dx\int_{a}^{y=x}dy\,f(x,y) \label{6} \end{equation}

これは単なる変数の呼び方の変更に過ぎないから積分結果が変わらないことは明らかである.また, この結果は, 図 2 の領域 $A$ に於ける連続関数 $f(x,y)$ の 2 重積分になっていることに注意する.以上の結果式\eqref{6} と式 \eqref{5} とから次が言える:

\begin{align} \iint_{B} f(y,x)\,dx dy &=\int_{a}^{b}dx\int_{y=x}^{b}dy\,f(y,x)=\int_{a}^{b}dy\int_{a}^{x=y}dx\,f(y,x)\notag\\ &=\int_{a}^{b}dx\int_{a}^{y=x}dy\,f(x,y)=\iint_{A} f(x,y)\,dx dy \label{7} \end{align}

よって,

\begin{equation} \int_{a}^{b}dx\int_{a}^{y=x}dy\,f(x,y)=\int_{a}^{b}dx\int_{y=x}^{b}dy\,f(y,x) \label{8} \end{equation}

これは式 (A.12) に等価である.


 この公式を本文で利用した箇所が第6章にある.粒子がポテンシャル $V(x,t)$ 中を運動する場合の核 $K_{V}(b,a)$ は, もしそのポテンシャルが小さくて, 経路に沿っての $V(x,t)$ の時間積分が $\hbar$ と比較して小さいならば, 式 (6-1) は次のように摂動展開することが可能である:

\begin{align} K_V(b,a)&=\int_a^{b} \mathscr{D}x(t)\,\exp\left\{ \frac{i}{\hbar}\int_{t_a}^{t_b} dt\,\left( \frac{m}{2}\dot{x}^{2}-V(x,t)\right)\right\} \tag{6-1}\\ &=K_0(b,a)+K^{(1)}(b,a)+K^{(2)}(b,a)+\dotsb, \tag{6-4} \end{align}

ただし,

\begin{align} \ K_0(b,a)&=\int_{a}^{b} \mathscr{D}x(t)\,\exp\left(\frac{i}{\hbar}\int_a^{b} \frac{m}{2}\dot{x}^{2}\right),\tag{6-5}\\ \ K^{(1)}(b,a)&=-\frac{i}{\hbar}\int_{a}^{b} \mathscr{D}x(t)\,\exp\left(\frac{i}{\hbar}\int_a^{b} \frac{m}{2}\dot{x}^{2}\right) \int_{t_a}^{t_b} ds\,V(x(s),s),\tag{6-6}\\ \ K^{(2)}(b,a)&=-\frac{1}{2\hbar^{2}}\int_{a}^{b} \mathscr{D}x(t)\,\exp\left(\frac{i}{\hbar}\int_a^{b} \frac{m}{2}\dot{x}^{2}\right) \int_{t_a}^{t_b} ds\,V(x(s),s)\int_{t_a}^{t_b} ds^{'}\,V(x(s^{'}),s^{'}),\tag{6-7}\\ &\qquad\qquad \vdots\notag \end{align}

このとき, 二重散乱の振幅 $K^{(2)}$ は次のように書くことも出来た:

\begin{equation} K^{(2)}(b,a)=\left(-\frac{i}{\hbar}\right)^{2}\int_{t_a}^{t_b}ds\int_{-\infty}^{\infty}dx_c \int_{s}^{t_b} ds^{'} \int_{-\infty}^{\infty}dx_d\,K_0(b,c)V(c,d)V(d)K_0(d,a) \tag{6-13} \end{equation}

この式 (6-13) と式 (6-7) を比較すると因子 $1/2$ が一見省略されているように見える.しかし, これは時間変数 $t_c=s^{'}$ の積分範囲を $t_a$ から $t_b$ ではなくて $t_d=s$ と $t_b$ の間に制限しているからである.この制限のために二重積分の値は半分となるのである:

\begin{equation} \int_{t_a}^{t_b}ds\int_{s}^{t_b} ds^{'}V[ x(s), s ]\,V[ x(s^{'}), s^{'} ]=\frac{1}{2}\int_{t_a}^{t_b}ds\int_{t_a}^{t_b} ds^{'}V[ x(s), s ]\,V[ x(s^{'}), s^{'} ] \end{equation}

この関係を示すのに上述の公式 (A.12) が利用できるのである.