ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

シュモルコフスキー(Smoluchowski)の条件

第12章は「確率論に於ける諸問題」という題になっている.その章の最初で Feynman は次のように述べている:

前の幾つかの章で多数の量子力学的問題を扱うためにどのようにして経路積分を使うかを述べた.これらの問題はその物理的性質からして確率論的問題である.( In the preceeding chapters we have seen how to use path integrals to treat a number of quantum-mechanical problems which are, by their very physical nature, probabilistic problems. )

今, そこの問題12-1 に解答するために, 色々な参考書を調べている.その内の 斎藤慶一:「工科系のための確率と確率過程」の § 3.3 Markov 過程 に, 「Smoluchowski の条件」というのが書かれていた.要点を抜粋してみると以下である.


工科系で当面する連続パラメータ $t$ を持つ確率過程では, 過去の履歴は現在の状態に影響するのが普通である.この内で最も単純ではあるが最も重要なのが 2 時点分布関数 $F_{2}(x_{1},t_{1};x_{2},t_{2})$ で完全に記述される確率過程である.言い換えれば, 確率過程 $X(t)$ に関する将来のある時点 $t_{2}$ に於ける情報は, 現時点 $t_{1}$ に於ける情報により完全に記述される.その際に過去の情報は必要としない.このような性質を持つ確率過程は「Markov 過程」と言われる.これを数式で表わすならば次となる:$X(t)$ が Markov 過程と呼ばれるのは, 任意の $n\, (>2)$, 任意の時点 $t_{1}<t_{2}<\dotsb<t_{n}$ に対して分布関数を $F_{n}(x_{n},t_{n}|x_{n-1},t_{n-1};\dotsb;x_1,t_{1})$ としたとき, 次式が成り立つ場合である: $ \def\ket#1{|#1\rangle} \def\bra#1{\langle#1|} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} $

\begin{equation} F_{n}(x_{n},t_{n}|x_{n-1},t_{n-1};\dotsb ; x_1,t_{1})=F_{2}(x_{n},t_{n}; x_{n-1},t_{n-1}) \tag{1} \end{equation}

対応する密度関数 $f(x)=dF(x)/dx$ が存在するときには, 上式は次のようにも表される:

\begin{equation} f_{n}(x_{n},t_{n}|x_{n-1},t_{n-1};\dotsb; x_1,t_{1})=f_{2}(x_{n},t_{n}; x_{n-1},t_{n-1}) \tag{2} \end{equation}

2 次の条件付き確率 $f_{2}(x_{k+1},t_{k+1};x_{k},t_{k})$ は, 確率過程 $X(t)$ が時刻 $t_{k}$ という状態に在るとき, 後の時刻 $t_{k+1}$ に $x_{k+1}$ という状態に移る確率であると考えて良い.この意味で, この 2 次の条件付き確率 $f_2$ は特に「推移確率」と呼ばれる.推移確率が次のような条件を満たすことは明らかである:

  • 規格化条件
\begin{equation} \int_{-\infty}^{\infty} dx_{k+1}\,f_{2}(x_{k+1},t_{k+1}| x_{k},t_{k}) = 1\tag{3} \end{equation}
  • 初期条件(時間に関する連続の条件)
\begin{equation} \lim_{t_{k+1}\to t_{k}}\, f_{2}(x_{k+1},t_{k+1}| x_{k},t_{k}) =\delta(x_{k+1}-x_{k}) \tag{4} \end{equation}
  • Smoluchowski ( シュモルコフスキー )の条件

一般に次の関係式が成立する:

\begin{equation} \int_{-\infty}^{\infty} dx_k\, f_3 ( x_{k+1}, t_{k+1}; x_k, t_k; x_{k - 1}, t_{k - 1})=f_2 (x_{k+1},t_{k+1}; x_{k - 1}, t_{k - 1}) \tag{5} \end{equation}

特にMarkov過程に於いては, 次式が成り立つ:

\begin{equation} \int_{-\infty}^{\infty} dx_k\, f_2 (x_{k+1}, t_{k+1}| x_k, t_k) f_2 (x_k, t_k; x_{k - 1}, t_{k - 1}) =f_2 (x_{k+1},t_{k+1}; x_{k - 1}, t_{k - 1}) \tag{6} \end{equation}

このときの式(6)は特に, 推移確率が満たすべき「 Smoluchowski の条件」(contistency condition)と言う.時刻 t_{k-1}x_{k-1} という状態から時刻 t_{k+1}x_{k+1} という状態になる事象を, 中間の時刻 t_{k} にまず 状態 x_{k} まで推移し, 更に x_{k+1} まで推移するという 2 段階に分けて考え, 中間の時刻にはどの状態にあっても, 最後には x_{k+1} という状態になればよいとして, 推移確率の間の関係式を立てたものが式(6)であると考えてよい.


この「Smoluchowskiの条件」は, まさにFeynman 経路積分の有用な関係式(2-31), すなわち「振幅の合成の性質」と同じものでないか !! と思われた:

\begin{equation} K(b,a)=\int dx_c\, K(b,c)\,K(c,a) \tag{2-31} \end{equation}

ただし「振幅は推移確率そのものではないこと」には注意が必要であろう.系が状態 $a$ から状態 $b$ へ遷移する「確率$P$」は,「振幅 $K(b,a)$」そのものではなくて, 次の「遷移振幅」で与えられるのであった:

\begin{equation} \BraKet{\chi}{1}{\phi}=\int dx_b \int dx_a\,\chi^{*}(x_b)\,K(b,a)\,\phi(x_a) \tag{7-1} \end{equation}

「確率過程論を量子力学に適用したものが経路積分なのかな」 と数学の分からない者が感じたのであった.