ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

式 (12-124) 及び 式 (12-126) について

校訂版の式 (12-124) 及び 式 (12-126) は, 次のように修正されているが, この修正は必要ないと思われた: $ \def\bra#1{\langle#1|} \def\ket#1{|#1\rangle} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\PKB#1#2{|#1\rangle\langle #2|} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} \def\mfrac#1#2{\frac{#1}{#2}} \def\reverse#1{\frac{1}{#1}} $

\begin{align} &w_n = e^{-n\hbar\omega_0/kT}(1-e^{-\hbar\omega_0/kT}),\notag\\ &\rightarrow\ w_n = e^{-n\hbar\omega_0/kT}/(1-e^{-\hbar\omega_0/kT}) \tag{12.124} \end{align}
\begin{align} &F=\sum_{m,n}G_{mn}G^{'*}_{mn}\,e^{-n\hbar\omega_0/kT}(1-e^{-\hbar\omega_0/kT}),\notag\\ &\rightarrow\ F=\sum_{m,n}G_{mn}G^{'*}_{mn}\,e^{-n\hbar\omega_0/kT}/(1-e^{-\hbar\omega_0/kT}) \tag{12.126} \end{align}

( ただし, 校訂版の和訳本では修正されていない).式 (12.124) を導出することで, そのことを確認してみよう.先ずは, 式 (12.124) に関係する本文部分を抜き出して書いておく.


次に示そうと思う例は,「基底状態に在り座標 $Q$ で記述される調和振動子によって構成された環境が, 相互作用 $\displaystyle{S_{int}(q,Q)=C\int dt\,q(t)Q(t)}$ を通じて線形に系 $q$ と結合しているとき, $F$ がどのようにして式 (12.90) から求められるか」である.振動子の質量を $1$ とし, 振動数を $\omega_0$ とすると, 環境系の作用 $S_0$ は次である:

\begin{equation} S_{0}[Q(t)]=\reverse{2}\int dt\,\left[\dot{Q}(t)^{2}-\omega^{2}_0 Q(t)^{2}\right] \tag{12.116} \end{equation}

[ このとき注意しなければならない事は, 考えている系 $q$ と環境系 $Q$ の関係である.以前の議論, 例えば 「§ 8-9 強制調和振動子」では, 我々が関心を持つのはあくまでも単純な振動子の方であった.その振動子座標を $q(t)$ とし, これに外力$f(t)$が加わった場合を議論して来たのである.しかし「§ 12.9 調和振動子からの影響汎関数」では, 議論は逆になっており, 調和振動子系 $Q(t)$ はあくまでも環境系に過ぎない.我々が関心を持つのは, 振動子に外力として作用する系 $q(t)$ の方である. ( これは自分の注意書きである ) ].

$\qquad \dotsb$

もう一つの興味ある例は, 有限温度に於ける 1 個の振動子との相互作用である.温度が $T$ であると, 始状態は相対確率 $e^{-E_n/kT}$ でエネルギー固有状態 $n$ にある.この場合, 絶対確率は次である:

\begin{equation} w_n =e^{-n\hbar\omega_0/kT}\left(1-e^{-\hbar\omega_0/kT}\right) \tag{12.124} \end{equation}

まず, 式 (12. 124) を導出する基本的な事柄を, 第10章の最初の部分から抜き出しておこう.

状態の統計的不確定性の中でも興味ある場合は, ある温度 $T$ での熱平衡状態に於ける統計的不確定性である.熱平衡に於ける量子力学系は, どれかのエネルギー準位に存在している ( can exist in one or another energy state ).量子統計力学の結果によると, ある平衡系が $N$ 個の取り得る状態の内の一つの状態を取るとき, 系がエネルギー $E_n$ の状態に存在する確率は $e^{-E_n/kT}$ に比例する.ここで $kT$ は自然エネルギー単位に於ける温度である. 変換因子 $k$ は 「Boltzmann 定数」として知られており, $k=1.380\,65\times 10^{-16}\,$ erg/K, または,

\begin{equation*} k=1\text{eV per}\, 11\, 605\, \text{K} =1.6022\times 10^{-12}\, \text{erg}/ 11,605\, \text{K}=8.6173\times 10^{-5}\,\text{eV/K} \end{equation*}

である*1

上述の指数法則は, まだ真の確率分布ではない.なぜなら, まだ規格化されていないからである.規格化因子は $1/Z$ と表される.従って, 系がエネルギー $E_n$ の状態に存在する確率は次となる:

\begin{equation} p_n =\frac{1}{Z}\,e^{-\beta E_n} \tag{10.1} \end{equation}

ただし, 縮退は無いものと仮定する .このときの $Z$ は「分配関数」( partition function ) または「状態和」( Zustandssumme )と呼ばれ, 次式で与えられる:

\begin{equation} Z=\sum_{n=1}^{N} e^{-E_n/kT}=\sum_{n=1}^{N} e^{-\beta E_n} \tag{10.2} \end{equation}

ただし $\beta=1/kT$ である.規格化因子は, あるエネルギー量 $F$ によって表すことも出来る:

\begin{equation} Z = e^{-F/kT}=e^{-\beta F} \tag{10.3} \end{equation}

$F$ は「Helmholtz の自由エネルギー」と呼ばれる.もちろん, エネルギー準位 $E_n$ は $T$ に依らないが, $F$ は温度 $T$ に依存する.


以上の基本事項から, 式 (12.124) を求めてみよう. 環境系としての振動子が, エネルギー固有状態にある場合を考える.エネルギー固有値 $E=\left(n+\mfrac{1}{2}\right)\hbar\omega_0$ を持つ調和振動子系が, 温度 $T$ で状態 $E_n$ に存在する絶対確率は, 取り得る状態の数は無限個存在するとして $N=\infty$ とすれば, 次で与えられる:

\begin{align} P_n&=\frac{e^{-E_n/kT}}{\ds{\sum_{m=0}^{\infty} e^{-E_m/kT}}}=\mfrac{e^{-\hbar\omega_0/2kT}e^{-n\hbar\omega_0/kT}}{\ds{e^{-\hbar\omega_0/2kT} \sum_{m=0}^{\infty} e^{-m\hbar\omega_0/kT}}}\notag\\ &=\mfrac{e^{-n\hbar\omega_0/kT}}{\ds{\sum_{m=0}^{\infty} e^{-m\hbar\omega_0/kT}}} \end{align}

この分母は初項 $a=1$ で公比 $r=e^{-\hbar\omega_0/kT}$ の無限等比級数の和の公式から求められる:

\begin{equation} Z=\sum_{m=0}^{\infty} e^{-m\hbar\omega_0/kT}=\mfrac{a}{1-r}=\mfrac{1}{1-e^{-\hbar\omega_0/kT}} \end{equation}

よって,

\begin{equation} P_n = \mfrac{e^{-n\hbar\omega_0/kT}}{1/(1-e^{-\hbar\omega_0/kT})} =e^{-n\hbar\omega_0/kT}\left(1-e^{-\hbar\omega_0/kT}\right) \tag{12.124} \end{equation}

*1:和訳本では $k=1\text{eV} /11.605\, \text{K}$ となっているので注意する.因みに, Wikipedia の「コンマ」の記事に次のような記述がある:「科学と技術の分野では、3桁ごとの桁区切りにコンマを用いず、空白(スペース)を用いる。その理由は、ヨーロッパ(フランス、ドイツなど)では桁区切りにピリオドを、小数点にコンマを用いるのに対し、英米ではこれとは逆に、桁区切りにコンマを、小数点にピリオドを用いるため、重大な誤読を防ぐためである」.