ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

特性汎関数について

「特性汎関数」が式 (12.12) で次のように定義されている: $ \def\ket#1{|#1\rangle} \def\bra#1{\langle#1|} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} $

\begin{equation*} \Phi[ k(t) ]=\frac{\ds{\int \mathscr{D}f(t)\,P[f(t)] \exp \left[ i\int dt\,k(t)f(t)\right]}}{\ds{\int \mathscr{D}f(t)\,P[f(t)]}} \tag{12.12} \end{equation*}

この「特性汎関数」が少し分かりずらかったので要点をまとめておこう.

[1]. 確率変数 $X$ の確率密度関数を $p(x)$ とするとき, 指数関数 $e^{ikx}$ の期待値を「特性関数」と言い $\phi(k)$ で表す:

\begin{equation*} \phi(k)\equiv E[e^{ikX}]=\langle e^{ikx}\rangle=\int_{-\infty}^{\infty} e^{ikx}p(x)\,dx \tag{12.8} \end{equation*}

これは, ちょうど「関数 $p(x)$ のフーリエ変換で符号を逆にした式」になっている.そこで, 例えば H. P. スウ:「フーリエ解析」には,「しばしばプラス $j$ フーリエ変換とも呼ぶ」と書かれている.( 工学の本では虚数単位に $j$ を用いるのであった ).

[2]. 物理学では, 空間の位置の関数として与えられる量 $f(x,y,z)$ を扱うことが非常に多い.デカルト座標 $x,y,z$ を位置ベクトル$\mb{r}$ の3成分と見做し $f(\mb{r})$ のように記すことも多い.この場合のフーリエ変換は $x,y,z$ の各々に対して行えば良いので 3次元フーリエ変換とその逆変換は次に書かれる:

\begin{align*} F(k_x,k_y,k_z)&=\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\right)^{3}\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty} \int_{-\infty}^{\infty}\,f(x,y,z)\,e^{-i k_x x}\,e^{-i k_y y}\,e^{-i k_z z}\,dx dy dz, \tag{1}\\ f(x,y,z)&=\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\right)^{3}\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty} \int_{-\infty}^{\infty}\,F(k_x, k_y, k_z)\,e^{i k_x x}\,e^{i k_y y}\,e^{i k_z z}\,dk_x dk_y dk_z \tag{2} \end{align*}

$k_x,\,k_y,\,k_z$ を3成分とするベクトルを「波数ベクトル」$\mb{k}$ と言う.すると波数ベクトル $\mb{k}$ と位置ベクトル $\mb{r}$ のスカラー積は次となる:

\begin{equation*} \mb{k}\cdot\mb{r}=k_x x+k_y y+k_z z \end{equation*}

さらに $d\mb{r}=dx dy dz,\ d\mb{k}=dk_x dk_y dk_z$ と略記してしまう.すると, 上式(1), (2) は次のように簡略して書くことが出来る:

\begin{align*} F(\mb{k})&=\frac{1}{\sqrt{8\pi^{3}}}\int f(\mb{r})\,e^{-i(k_x x+k_y y+k_z z)}\,d\mb{r} =\frac{1}{\sqrt{8\pi^{3}}}\int f(\mb{r})\,e^{-i\mb{k}\cdot\mb{r}}\,d\mb{r}, \tag{3}\\ f(\mb{r})&=\frac{1}{\sqrt{8\pi^{3}}}\int F(\mb{k})\,e^{i(k_x x+k_y y+k_z z)}\,d\mb{k} =\frac{1}{\sqrt{8\pi^{3}}}\int F(\mb{k})\,e^{i\mb{k}\cdot\mb{r}}\,d\mb{k} \tag{4} \end{align*}

( 以上の文章は、小出:「物理現象のフーリエ解析」から「多次元のフーリエ変換」についての記述を要約して抜粋したものである ).

[3]. 「$n$ 次確率密度関数」の場合の特性関数は、$n$ 個の変数による $n$ 次元フーリエ変換となる.それは式 (12.8) の $n$ 次元化を上の [2]. の式(1) または式(3) からの類推によって行えば良い.よって「$n$ 次特性関数」は次のように書けるであろう:

\begin{align*} \Phi(k_1,k_2,\dotsb,k_n)&=\langle e^{i(k_1 x_1+k_2 x_2+\dotsb +k_n x_n)}\rangle \\ &=\int_{-\infty}^{\infty} dx_1 \int_{-\infty}^{\infty} dx_2 \dotsb \int_{\infty}^{\infty}dx_n\,p_n (x_1,x_2,\dotsb, x_n)\, e^{i(k_1 x_1+k_2 x_2+\dotsb+k_n x_n)} \tag{5} \end{align*}

ただし, 式(12.12) を見ると分母があるので規格化因子はキャンセルされる.そのため, ここでは規格化因子は除かれる.

[4]. 時間パラメータ $t$ が連続で区間 $[0,T]$ にあるとき, 時間 $t$ の関数 $k(t)$ が同じ区間で定義されているとしよう.今までこの区間を分割する点を $t_{1},t_{2},\dotsb,t_{n}$ として来たので, 分割された微小区間を $\Delta t_{i}= t_{i} - t_{i-1}$ とする.そして $n$ 次特性関数の定義式(5) に於いて $k_{i}x_{i}$ を $k(t_{i})k(t_{i})\Delta t_{i}$ に置き換える. すると, 分割点数 $n$ を十分大きくし且つ $\Delta t_{i}\, (i=1,2,\dotsb,n)$ のうち最大のものがゼロに収束するような極限操作を施すならば, 次のような表式が得られる:

\begin{equation*} \exp\left[ i(k_{1} x_{1}+\dotsb+k_{n} x_{n}) \right]\Rightarrow \exp\left[ i\sum_{i} k(t_i) x(t_i)\Delta t_{i} \right] \ \xrightarrow{\ \Delta t_i \to 0}\ \exp\left[i\int_0^{T} k(t) x(t)\,dt\right] \end{equation*}

このとき, 式(5) は次となる:

\begin{align*} \Phi[k(t)]&=E\left[\exp\left\{ i\int_0^{T} k(t)X(t) \right\}\right]=\left\langle \exp\left\{ i\int_0^{T} k(t)x(t)\,dt \right\}\right\rangle \\ &=\lim_{\Delta t_i\to 0}\int_{-\infty}^{\infty} dx_1\int_{-\infty}^{\infty} dx_2\dotsb \int_{-\infty}^{\infty} dx_n\, p_n (x_1,x_2,\dotsb,x_n)\, \exp\left[ i\int_0^{T} k(t) x(t)\,dt\right] \tag{6} \end{align*}

$\Phi[k(t)]$ は関数 $k(t)$ の関数であるので, これを「特性汎関数」(characteristic functional) と言う. この式(6) で $x(t)=f(t)$ とし経路積分の表現で書き表したのが本文の式 (12.12) である:

\begin{align*} \Phi[k(t)]&=\int \mathscr{D}f(t)\,P[f(t)]\exp\left[i\int dt\,k(t)f(t)\right]\\ &=\lim_{\Delta t_i\to 0} \int_{-\infty}^{\infty} df_1 \int_{-\infty}^{\infty} df_2\dotsb \int_{-\infty}^{\infty} df_n\,p_n(f_1,f_2,\dotsb,f_n)\, \exp\left[ i\int_0^{T} k(t) f(t)\,dt\right] \end{align*}