ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

波動関数の解釈

経路積分がやっと読み終わったので, 次に「超伝導」について学んで行こうと思う.これからは, その際に気になった事や難解と思われた点などについても記事を書いて行こう.「超伝導」についても初学者なので入門書から取り掛かることにし, 裳華房の青木秀夫著:「超伝導入門」の BCS 理論までを読んで行く.ファインマンも「ファインマン統計力学」の第 10 章で「超伝導」を議論しているので, それも参考にしながら取り組んで行くつもりである.先ずは, 「超伝導入門」の § 1. 2. 4 で「波動関数を振幅と位相に分けて表わすことによる議論」を理解するために, J.J. Sakurai の § 2.4 「波動関数の解釈」の部分を抜粋してまとめておく.


波動関数の解釈

次式で定義される量 $\rho$ は, 波動力学で「確率密度」と見做されている: $ \def\bra#1{\langle#1|} \def\ket#1{|#1\rangle} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\PKB#1#2{|#1\rangle\langle #2|} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} \def\mfrac#1#2{\frac{#1}{#2}} \def\reverse#1{\frac{1}{#1}} $

\begin{equation} \rho(\mb{x},t)=\big|\psi(\mb{x},t)\big|^{2}=\big|\BK{\mb{x}}{\alpha,t_0; t}\big|^{2} \label{1} \end{equation}

従って, 検出器を用いて $\mb{x}$ の周りの微小体積要素 $d^{3}\mb{x}$ 内に粒子が存在するかどうかを確かめると, 時刻 $t$ で肯定的結果が記録される確率は $\rho(\mb{x}, t)\,d^{3}\mb{x}$ で与えられる.

時間に依存するシュレディンガー波動方程式を用いると, 次の「連続の方程式」が導ける:

\begin{equation} \ppdiff{\rho}{t}+\nabla\cdot \mb{j} =0 \label{2} \end{equation}

ただし $\mb{j}(\mb{x},t)$ は「確率の流れ」( probability flux ) と呼ばれ, 次式で与えられる:

\begin{align} \mb{j}(\mb{x},t)&=\mfrac{i\hbar}{2m}\big[\psi\nabla\psi^{*}-\psi^{*}\nabla \psi \big]\notag\\ &=\mfrac{\hbar}{m}\text{Im}\,\big[ \psi^{*}\nabla \psi\big] \label{3} \end{align}

2行目のように表せることは $Z=\psi^{*}\nabla\psi=\alpha+i\beta$ としたときに, 次が言えることから分かることである:

\begin{align*} &Z^{*}-Z=\psi\nabla\psi^{*}-\psi^{*}\nabla\psi=(\alpha-i\beta)-(\alpha+i\beta) =-2i\beta,\ \rightarrow\ \beta =\mfrac{i}{2}\big( Z^{*}-Z \big)\\ \rightarrow & \quad \text{Im}\big[ Z \big]=\text{Im}\big[ \psi^{*}\nabla\psi \big] =\beta=\mfrac{i}{2}\big( Z^{*}-Z\big) =\mfrac{i}{2} \big[ \psi\nabla\psi^{*}-\psi^{*}\nabla\psi \big]\\ \therefore &\quad \mfrac{\hbar}{m}\text{Im}\big[ \psi^{*}\nabla\psi \big]=\mfrac{\hbar}{m}\mfrac{i}{2}\big[ \psi\nabla\psi^{*} - \psi^{*}\nabla\psi \big] =\mfrac{i\hbar}{2m}\big[\psi\nabla\psi^{*}-\psi^{*}\nabla \psi \big] \end{align*}

式 \eqref{2} の「連続の方程式」は, $\rho=\psi^{*}\psi$ を時間 $t$ で微分すると, シュレディンガー方程式とその複素共役の式を利用するとハミルトニアン中のポテンシャル$V$ を含む項が消えることから求めることが出来る:

\begin{align} \pdiff{t}(\psi^{*}\psi)&=\ppdiff{\psi^{*}}{t}\psi+\psi^{*}\ppdiff{\psi}{t} =-\frac{i\hbar}{2m}\big[(\nabla^{2}\psi^{*})\psi-\psi^{*}(\nabla^{2}\psi) \big]\notag\\ &=\frac{i\hbar}{2m}\left[ \nabla\cdot\big\{ \psi^{*}(\nabla \psi) - (\nabla\psi^{*})\psi \big\} \right] =-\nabla\cdot\mb{j} \label{4} \end{align}

確率の流れ $\mb{j}$ が運動量と関係していることは, $\mb{j}$ を全空間に渡って積分することで分かることである:

\begin{equation} \int \mb{j}(\mb{x},t)\,d^{3}x = \frac{\langle \mb{p}\rangle_t}{m} \label{5} \end{equation}

ただし $\langle \mb{p} \rangle_t$ は, 運動量演算子の時刻 $t$ での期待値である.

波動関数の物理的意味を理解するために, 波動関数を確率密度 $\rho$ と $S$ を実数量として次のように書いてみる:

\begin{equation} \psi(\mb{x},t)=\sqrt{\rho(\mb{x},t)}\,\exp\left[ \mfrac{iS(\mb{x},t)}{\hbar} \right] \label{6} \end{equation}

このときの実数量 $S$ の物理的解釈は, 確率の流れ $\mb{j}$ が量 $S$ を用いて次式のように書けることに注目する:

\begin{align} &\psi^{*}\nabla \psi =\sqrt{\rho}\,\nabla ( \sqrt{\rho}) + i\frac{\rho}{\hbar}\nabla S,\ \rightarrow \ \mb{j} =\mfrac{\hbar}{m}\text{Im}\,\big[ \psi^{*}\nabla \psi\big]= \frac{\hbar}{m}\frac{\rho}{\hbar}\,\nabla S \notag\\ \therefore &\quad \mb{j}=\frac{\rho}{m}\nabla S \label{7} \end{align}

これより「波動関数の位相の空間変化が確率の流れを示す」ことが分かる.位相変化が激しいほど, 流れは強くなる.ある場所 $\mb{x}$ での確率の流れ $\mb{j}$ の方向は, その点 $\mb{x}$ を通る「位相が一定な面」の法線方向である.特に平面波の場合には次式が言える:

\begin{equation} \psi(\mb{x},t)=A\exp\left(i\mfrac{\mb{p}}{\hbar}\cdot\mb{x} -i\mfrac{E}{\hbar}t\right),\ \rightarrow\ \nabla S = \mb{p} \label{8} \end{equation}

以上を基にして「超伝導入門」の § 1. 2. 4 の式 (1.11) を考えてみよう.そこでは波動関数として式 \eqref{6} の代わりに $\psi(\mb{r})=|\psi(\mb{r})|\,e^{i\phi(\mb{r})}$ としているので, 式 \eqref{6} の $\rho$ と $S$ は次とする:

\begin{equation} \rho=|\psi(\mb{r})|^{2},\quad S=\hbar\,\phi(\mb{r}) \label{9} \end{equation}

粒子としては「クーパー対 ( 2 つの電子の束縛状態 ) 」を考える.「量子的な電流密度 $\mb{j}^{'}$ は, 確率の流れ $\mb{j}$ に電荷 $q$ を掛け合わせたものであるとする」ならば*1, 式 \eqref{3} 及び式 \eqref{7} に, 電荷として $e^{*}=-2e$を掛け合わせ, また質量として $m^{*}= 2m_e$ とすればよい.さらに注意すべきはクーパー対の密度である.「電子1個に対してクーパー対は半分しか存在しない勘定になる」のである.従って $\rho=|\psi|^{2}\to \rho^{*}=|\psi|^{2}/2$ の置き換えが必要となる*2.以上のことから,「超伝導入門」の式 (1.11) を得る:

\begin{align} \mb{j}^{'}&\equiv q\times\mb{j}(\mb{x},t)=e^{*}\times \mfrac{i\hbar}{2 m^{*}}\big[\psi\nabla\psi^{*}-\psi^{*}\nabla \psi \big] =\frac{-2e i\hbar}{4m_e}\big[\psi\nabla\psi^{*}-\psi^{*}\nabla \psi \big]\notag\\ &=-\frac{i e\hbar}{2m_e}\big[\psi\nabla\psi^{*}-\psi^{*}\nabla \psi \big], \notag\\ \mb{j}^{'}&=e^{*}\times \frac{\rho^{*}}{m^{*}}\nabla S=\frac{e^{*}}{m}\rho^{*}\,\nabla S =-\frac{2e}{2 m_e}\frac{|\psi(\mb{r})|^{2}}{2}\nabla\, \hbar\phi(\mb{r})\notag\\ &=-\frac{e\hbar}{2 m_e}|\psi|^{2}\,\nabla \phi \label{10} \end{align}

*1:外村彰著「目で見る美しい量子力学」の第16章で, 外村は次のように述べている:
超伝導体の内部には, 巨大なクーパーペアの波が生じ, シュレディンガー方程式と類似の式に従う.その波動関数を $\psi=R\exp(i\theta)$ と置き, 磁場を印加したときの反応を考えよう.$R$ と $\theta$ はいずれも実数値をとる関数である.この場合の $|\psi|^{2}$ は, もはや電子の場合のように '' 電子の存在確率 '' ではない.沢山のクーパーペアが同じ状態に凝縮した超伝導では, $|\psi|^{2}$ は '' 電子密度 '' $\rho$ そのものになる」.

*2:上記脚注 1 の外村の p. 182 を参照のこと.