ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

定常過程と式 (12-20) の導出

前のブログ記事に関連して, 式 (12-20)の導出過程を示しておこう.導出には「定常過程とその特性」を利用してみる.


以下は, 斎藤慶一:「確率と確率過程」の§ 3. 2 から「定常性」について要点をまとめたものである.

定常性
確率過程 $X(t)$ を $n$ 個 ($n=1,2,\dotsb)$ の任意の時点 $t_1,t_2,\dotsb,t_n$ で観測したとき, 得られる確率変数 $X(t_1),X(t_2),\dotsb,X(t_n)$ の統計的性質が, 任意の $h>0$ だけずらした時点で観測したとき得られるもの $X(t_1+h),X(t_2+h),\dotsb,X(t_n+h)$ の統計的性質と同じである場合がある. このとき, 確率過程 $X(t)$ は,「定常である」と言う.言い換えれば, 定常な確率過程 $X(t)$ に於いては, その統計的性質は観測開始時刻の選び方には無関係である.特に, 平均値 $E[X(t)]$ が時間 $t$ には無関係に一定値を取り, 2時点相関関数 $\Gamma_X(t_1,t_2)$ が時間差 $\theta=t_2-t_1$ のみの関数である場合が多い.この性質を持つ確率過程は「弱い定常性がある」と言う.

従って, 統計的性質として「平均値$E[X(t)]$」を考えるならば, 定常過程では次が言える: $ \def\bra#1{\langle#1|} \def\ket#1{|#1\rangle} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\PKB#1#2{|#1\rangle\langle #2|} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} \def\mfrac#1#2{\frac{#1}{#2}} \def\reverse#1{\frac{1}{#1}} $

\begin{equation} E[X(t+h)]=E[X(t)] \label{1} \end{equation}

以上をもとに式 (12-20)を導出してみよう. 特性汎関数の式 (12.19) を,「パルスが非常に弱く, 単位時間当たりのパルス数の期待値 $\mu$ が大きい場合」を考える.この場合「パルス $g(t)$ は小さい」ので $\displaystyle{\exp\left[i\int_{-\infty}^{\infty}dt\,k(t+s)g(t)\right]}$ を冪級数で展開できる.ただし式 (12-17) は和訳本の方の式を利用しよう.また時間間隔 $T$ の間の事象を考えるので, $dt$ 積分積分区間は $[0,T]$ と見做そう.すると,

\begin{align} &1-\exp\left( i\int_{-\infty}^{\infty} dt\,k(t+s)\,g(t)\right) \approx 1-\left( 1+i\int_{0}^{T} dt\,k(t+s)\,g(t)\right) \notag\\ &=-i\int_{0}^{T} dt\,k(t+s)\,g(t)\ \to\ -i\int_0^{T}dt\,k(t)\,g(t-s) \label{2} \end{align}

よって, 特性汎関数は次となる:

\begin{align} \Phi[k(t)]&=\exp\left[-\mu\int_{0}^{T}ds\,\left\{1-\exp\left(i\int_{-\infty}^{\infty} dt\,k(t+s)g(t)\right)\right\}\right]\notag\\ &\approx \exp\left[i\mu\int_0^{T}ds\int_{0}^{T} dt\,k(t+s)\,g(t)\right]\notag\\ &=\exp\left[i\mu\int_0^{T}ds \int_{0}^{T} dt\,k(t)\,g(t-s)\right] \label{3} \end{align}

また, 「パルス $g(t)$ の発生は時間間隔 $T$ 全体に一様な確率でランダムに分布している」と仮定するのであった.従って, 今考えているのは「関数がランダムでなくある特定な関数 $F(t)$ であることが確定している, すなわち確率密度関数が $f(t)=1$ の場合」であり, かつ「定常過程の場合」の特性汎関数である.よって, 式 \eqref{3} 中の指数部分の積分の期待値は積分値そのものであり, またパルス $g(t)$ は定常性から時間 $t$ には無関係となる.よって次のようになる:

\begin{align} &\int_0^{T}ds \int_{0}^{T} dt\,k(t)\,g(t-s)=E \left[ \int_0^{T}ds \int_{0}^{T} dt\,k(t)\,g(t-s)\right]\notag\\ &=\int_0^{T}ds \int_{0}^{T} dt\,k(t)\,E\big[ g(t-s) \big]=\int_0^{T}ds \int_{0}^{T} dt\,k(t)\,E\big[ g(s) \big]\notag\\ &=\int_0^{T}ds\,E\big[ g(s)\big] \int_{0}^{T} dt\,k(t)\notag\\ &=E\left[ \int_0^{T}ds\,g(s)\right] \int_{0}^{T} dt\,k(t) \label{4} \end{align}

ただし $E\big[g(t-s)\big]=E\big[ g(s)\big]$ とし, $s$ はパルスの波形を決める時間パラメータとした.従って, この場合の特性汎関数は次となる:

\begin{align} \Phi[k(t)]&=\exp\left[-\mu\int_{0}^{T}ds\,\left\{1-\exp\left(i\int_{-\infty}^{\infty} dt\,k(t+s)g(t)\right)\right\}\right]\notag\\ &\approx \exp\left\{ i\mu\int_0^{T}ds\int_{0}^{T} dt\,k(t+s)\,g(t)\right\}\notag\\ &=\exp\left\{i\mu E\left[\int_0^{T}ds\,g(s)\right] \int_{0}^{T} dt\,k(t)\right\}\notag\\ &=\exp\left\{i\mu\,G\int_0^{T} dt\,k(t)\right\} \tag{12.20} \end{align}

ただし, 本文にあるように $G$ は, パルス $g(s)$ の時間積分の平均値である:

\begin{equation} G=E\left[\int_0^{T}ds\,g(s)\right]=\int_0^{T} g(s)f(s)\,ds=\int_0^{T} g(s)\,ds \label{5} \end{equation}

よって, これはパルス波形の面積 (の平均値) に相当している.