問題 4-11 では「3次元の自由粒子」の波動関数を扱っている.Dirac :「量子力学」の§ 30 は「自由粒子」について述べている.そこで, しつこいようだが解答を書く前に, この Dirac の § 30 の訳文を示しおこう.
30. 自由粒子(The free particle)
量子力学の最も基礎的で初等的な応用は「1個の自由粒子」, すなわち「どんな力も作用していない粒子」から成る系である.これを扱うための力学変数として, 3 つのデカルト座標 $x$, $y$, $z$ とそれに共役な運動量 $p_{x}$, $p_{y}$, $p_{z}$ を用いる.ハミルトニアンは粒子の運動エネルギーに等しい.すなわち, ニュートン力学によれば を粒子の質量として次である:
$
\def\ket#1{|#1\rangle}
\def\bra#1{\langle#1|}
\def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle}
\def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle}
\def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}}
\def\odiff#1{\frac{d}{d #1}}
\def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}}
\def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}}
\def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}}
\def\mb#1{\mathbf{#1}}
\def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}}
\def\sket{\rangle}
\def\mfrac#1#2{\frac{#1}{#2}}
\def\reverse#1{\frac{1}{#1}}
$
\begin{equation*}
H=\reverse{2m}(p_x^{2}+p_y^{2}+p_z^{2})=\mfrac{\mb{p}^{2}}{2m}
\tag{22}
\end{equation*}
粒子の速度が光速度 $c$ に比べて小さい場合にしかこの公式は正しくない.原子理論でしばしば扱わねばならない高速運動する粒子の場合では, 式(22) は次の相対論的な公式で置き換える必要がある:
\begin{equation*}
H=c\sqrt{m^{2}c^{2}+p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2}}=c\sqrt{m^{2}c^{2}+\mb{p}^{2}}
\tag{23}
\end{equation*}
$p_x,\,p_y,\,p_z$ の値が小さい場合, 式(23) は式(22) に近づいて行く (go over into).ただし, 定数項 $mc^{2}$ を別にすればである.この項は相対論における粒子の静止エネルギーに相当するもので, 運動方程式には何の影響も与えない.
(参考1). ローレンツ計量として $(+,-,-,-)$ としたとき, 質量 を次のように定義できる:
\begin{align*}
&p^{\mu}p_{\mu}=(mc)^{2}\,,\quad p^{\mu}=\Bigl(\mfrac{E}{c},\mb{p}\Bigr),\\
&\rightarrow\quad p^{\mu}p_{\mu}
=\Bigl(\mfrac{E}{c},\mb{p}\Bigr)\cdot\Bigl(\mfrac{E}{c},-\mb{p}\Bigr)
=\mfrac{E^{2}}{c^{2}}-\mb{p}^{2}=(mc)^{2}
\end{align*}
このとき, $\mb{p}=\gamma m\mb{v}$ であるから, $\mb{p}\approx m\mb{v}\ll mc$と近似するならば,
\begin{align*}
E^{2}&=c^{2}\{\mb{p}^{2}+(mc)^{2}\},\\
E &\approx c\sqrt{(m\mb{v})^{2}+(mc)^{2}}
=c(mc)\Bigl\{\Bigl(\mfrac{\mb{v}}{c}\Bigr)^{2}+1\Bigr\}^{\reverse{2}}
\approx mc^{2}\Bigl(1+\reverse{2}\mfrac{\mb{v}^{2}}{c^{2}}\Bigr)\\
&=mc^{2}+\reverse{2}m\mb{v}^{2}=mc^{2}+\mfrac{\mb{p}^{2}}{2m}
\end{align*}
公式(22)と公式(23)はそのまま量子論に取り入れる (take over into) ことが出来る.ただし式(23) の平方根は今度は § 11 の最後で定義された「正定値平方根」を意味するものとする :
\begin{equation*}
H\,\ket{p^{'}}=+c\sqrt{m^{2}c^{2}+\mb{p}^{'2}}\,\ket{p^{'}}
\end{equation*}
$p_x,\,p_y,\,p_z$ の値が小さい場合には, 式(23) は式(22) と定数項 $mc^{2}$ だけ相違するが, これは量子論でもやはり物理的には何の影響も持たないとすることが出来る.なぜなら § 27 で導入した如く, 量子論におけるハミルトニアンには任意の実数定数を付加するだけの不定さがあるからである.
ここでは, より正確な公式(23), すなわち相対論的公式で議論して行こう.まずはハイゼンベルグの運動方程式を解くことにする.§ 21 の基本的な量子条件の式(9):
\begin{equation*}
q_r q_s - q_s q_r =0,\quad p_r p_s - p_s p_r =0, \quad q_r p_s - p_r q_s = i\hbar\,\delta_{r\,s}
\end{equation*}
から, 「$p_{x}$ は $p_{y}$ および $p_{z}$ と交換可能」である.従って § 19 の定理:
あるオブザーバブル $\xi$ と交換可能な線形演算子 $\omega$ は, オブザーバブル $\xi$ の任意な関数 $f(\xi)$とも交換可能である:
\begin{equation}
\xi\omega-\omega\xi=0\quad \rightarrow\quad f(\xi)\,\omega - \omega f(\xi) =0
\notag
\end{equation}
を交換可能なオブザーバブル集合に拡張するならば, 「$p_{x}$ は $p_x,\,p_y,\,p_z$ の任意関数と交換し, 従って $H$ と交換する」.このことから $p_{x}$ は「運動の定数」( constant of the motion ) であることがわかる.同様にして $p_y,\,p_z$ も「運動の定数」である.これらの結果は古典論と同じである.
さらにまた, 座標についての運動方程式は, 例えば $x_{t}$ について考えるならば, § 28 の式(11) の力学変数である線形演算子$v_t$についての式:
\begin{equation*}
i\hbar \frac{d v_{t}}{d t} = v_{t} H_{t} - H_{t} v_{t}
\end{equation*}
から次となる:
\begin{equation*}
i\hbar\,\dot{x_{t}}=i\hbar\,\frac{d x_{t}}{d t}=x_t\,H-H\,x_t=x_t\,c\sqrt{m^{2}c^{2}+p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2}}
-c\sqrt{m^{2}c^{2}+p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2}}\,x_t
\end{equation*}
ここで右辺は § 22 の次の公式(31):
\begin{equation*}
p_r f - f p_r =-i\hbar \ppdiff{f}{q_{r}}
\tag{22-31}
\end{equation*}
において, 座標と運動量の役割を交換したものによって評価することが出来る.すなわち次のような表現となる:
\begin{equation*}
q_{r}\,f-f\,q_{r}=i\hbar\,\ppdiff{f}{p_{r}}
\tag{24}
\end{equation*}
(参考2). 古典力学のポアソン括弧式の定義から,$[\,p_r,\,f\,]_c$ 及び $[\,q_r,\,f\,]_c$ は次となる:
\begin{align*}
&\quad [\,p_r,\,f\,]_c=\sum_k\left(\ppdiff{p_r}{q_k}\ppdiff{f}{p_k}
-\ppdiff{p_r}{p_k}\ppdiff{f}{q_k}\right)=-\sum_k\delta_{rk}\ppdiff{f}{q_k}
=-\ppdiff{f}{q_r}\\
&\quad [\,q_r,\,f\,]_c=\sum_k\left(\ppdiff{q_r}{q_k}\ppdiff{f}{p_k}
-\ppdiff{q_r}{p_k}\ppdiff{f}{q_k}\right)=\sum_k\delta_{rk}\ppdiff{f}{p_k}
=\ppdiff{f}{p_r}
\end{align*}
これを量子論的 P.B. 式, すなわち交換子に変えれば式 (22-31) 及び式(24) となる:
\begin{align*}
&\quad [\,p_r,\,f\,]_c\ \rightarrow\ [\,p_r,\,f\,]_q=\reverse{i\hbar}[\,p_r,\,f\,],\quad
[\,q_r,\,f\,]_c\ \rightarrow\ [\,q_r,\,f\,]_q=\reverse{i\hbar}[\,q_r,\,f\,]\\
&\quad\therefore\quad \reverse{i\hbar}[\,p_r,\,f\,]=-\ppdiff{f}{q_r},\quad
\reverse{i\hbar}[\,q_r,\,f\,]=\ppdiff{f}{p_r}
\end{align*}
ところで(now),$f$ は $p_{i}$ の任意関数であるから $f=H$ としてこれを用いれば, 前式の右辺がちょうど式(24) の左辺になっているので次となる:
\begin{align*}
i\hbar\,\dot{x}_{t}&=x_{t}H-Hx_{t}=i\hbar\,\ppdiff{H}{p_{x}}
=i\hbar\,\pdiff{p_{x}}c(m^{2}c^{2}+p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2})^{\frac{1}{2}}\\
&=i\hbar\,c\,2p_x\reverse{2}(m^{2}c^{2}+p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2})^{-\reverse{2}}
=\mfrac{i\hbar\,c\,p_x}{\sqrt{m^{2}c^{2}+p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2}}}\\
\therefore\quad i\hbar\,\dot{x}_t
&=\mfrac{i\hbar\, p_{x}c^{2}}{c\,\sqrt{m^{2}c^{2}+p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2}}}
=i\hbar\, \mfrac{\,c^{2}\,p_{x}\,}{H}\\
\Rightarrow\quad \dot{x}_t
&=\pdiff{p_{x}}c(m^{2}c^{2}+p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2})^{\frac{1}{2}}=\mfrac{\,c^{2}\,p_x\,}{H}
\end{align*}
同様なことが $y_{t},\,z_{t}$ についても言えるので結局, 次式が得られる:
\begin{equation}
\dot{x}_{t}=\pdiff{p_{x}}c(m^{2}c^{2}+p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2})^{\reverse{2}}
=\mfrac{\,c^{2}\,p_x\,}{H},\quad \dot{y}_{t}=\mfrac{\,c^{2}\,p_y\,}{H},\quad
\dot{z}_{t}=\mfrac{\,c^{2}\,p_z\,}{H}
\tag{25}
\end{equation}
速度の大きさは次である:
\begin{equation*}
v=(\dot{x_{t}}^{2}+\dot{y_{t}}^{2}+\dot{z_{t}}^{2})^{\reverse{2}}
=\mfrac{\,c^{2}\,(p_{x}^{2}+p_{y}^{2}+p_{z}^{2})^{\reverse{2}}\,}{H}
=\mfrac{\,c^{2}\,|\mb{p}|\,}{H}
\tag{26}
\end{equation*}
式(25) と式(26) は古典論と全く同じである.
(参考3). 古典的な相対論において, 運動量 $\mb{P}$ とエネルギー $E$ は次式で与えられる:
\begin{equation*}
\mb{P}=m\mb{u}=\mfrac{m\mb{v}}{\sqrt{1-\beta^{2}}},\qquad
E=\mfrac{mc^{2}}{\sqrt{1-\beta^{2}}}
\end{equation*}
ただし, $\beta=|\mb{v}|/c$ である.この 2 式の両辺同士を割り算すれば, 次式が得られる:
\begin{equation*}
\mfrac{\mb{P}}{E}=\mfrac{m\mb{v}}{\sqrt{1-\beta^{2}}}\times
\mfrac{\sqrt{1-\beta^{2}}}{mc^{2}}=\mfrac{\mb{v}}{c^{2}}\,,\qquad\therefore\quad
\mb{v}=\mfrac{c^{2}\mb{P}}{E}
\end{equation*}
従って $E\Rightarrow H$ とおけば, 本文の式と同じ式となる:
\begin{equation*}
\mb{v}=\mfrac{c^{2}\mb{P}}{H},\quad\text{or}\quad (v_{x},v_{y},v_{z})
=(\mfrac{c^{2}p_{x}}{H},\mfrac{c^{2}p_{y}}{H},\mfrac{c^{2}p_{z}}{H})
\end{equation*}
運動量の固有状態でその固有値が $p'_{x},p'_{y},p'_{z}$ である状態を考察しよう.この状態はハミルトニアンの固有状態でなければならず, 次の固有値に属する:
\begin{equation*}
H^{'}=c\,\sqrt{m^{2}c^{2}+p^{'2}_{x}+p^{'2}_{y}+p^{'2}_{z}}
\tag{27}
\end{equation*}
従って, これは定常状態のはずである.$H'$ の取り得る値は $mc^{2}$ から $\infty$ までの全ての値であり, これは古典論と同じである.シュレディンガー表示における任意時刻でのこの状態を表現する波動関数 $\psi(xyz)$ は次を満たさねばならない:
\begin{equation*}
p^{'}_{x}\psi(xyz)\,\sket = p_{x}\psi(xyz)\,\sket= -i\hbar\,\ppdiff{\psi(xyz)}{x}\,\sket
\end{equation*}
同様な式が $p_{y}$ および $p_{z}$ に対しても言える.これらの式から, $\psi(xyz)$ は次の形のものであることがわかる:
\begin{equation*}
\psi(xyz)=a\,e^{i(p^{'}_{x}x+p^{'}_{y}y+p^{'}_{z}z)/\hbar}=a\,e^{i\mb{p}'\cdot\mb{x}/\hbar}
\tag{28}
\end{equation*}
(参考4). 上式より, $\psi(\mb{x})$ は次の偏微分方程式を満たすべきである:
\begin{equation*}
-i\hbar\ppdiff{\psi}{x}=p^{'}_x\psi,\quad -i\hbar\ppdiff{\psi}{y}=p^{'}_y\psi,
\quad-i\hbar\ppdiff{\psi}{z}=p^{'}_z\psi
\end{equation*}
式(28) がこれらの式をすべて満たすことは, 実際に代入して確かめることが出来る.例えば,
\begin{equation*}
-i\hbar\ppdiff{\psi}{x}=-i\hbar\pdiff{x}\,a\,e^{i\mb{p}^{'}\cdot\mb{x}/\hbar}
=(-i\hbar)\times a\times \left(\mfrac{ip_x^{'}}{\hbar}\right)e^{i\mb{p}^{'}\cdot\mb{x}/\hbar}
=p_x^{'}\,a\,e^{i\mb{p}^{'}\cdot\mb{x}/\hbar}=p^{'}_x\,\psi
\end{equation*}
ここで $a$は $x,y,z$ には依存しない.すると § 29 の式(18):$\psi(\xi t)=\psi_{0}(\xi)\,e^{-iH' t/\hbar}$ より, 時間依存する波動関数$\psi(xyzt)$ は次の形のものであることがわかる:
\begin{equation*}
\psi(xyzt)=a_{0}\, e^{i(p^{'}_{x}x+p^{'}_{y}y+p^{'}_{z}z-H^{'}t)/\hbar}
=a_0\, e^{i(\mb{p}^{'}\cdot\mb{x}-H^{'}t)/\hbar}
\tag{29}
\end{equation*}
ここで $a_{0}$ は $x,y,z$ そして $t$ には依存しない.
$t,\,x,\,y,\,z$ の関数の式(29) は, 時空 (space-time) における平面波を描写している.この例から,「波動関数」と「波動方程式」という術語 (term) が適したものであることが分かる.この波の周波数は,
\begin{equation*}
\omega=2\pi\nu=\mfrac{\,H^{'}\,}{\hbar},\quad\rightarrow\quad
\nu=\mfrac{H^{'}}{\,2\pi\hbar\,}=\mfrac{\,H^{'}\,}{h}
\tag{30}
\end{equation*}
であり, 波長は次である:
\begin{equation*}
|\mb{k}|=\mfrac{\,2\pi\,}{\lambda}=\mfrac{\,|\mb{p}^{'}|\,}{\hbar},\quad\rightarrow\quad
\lambda=\mfrac{\,2\pi\hbar\,}{|\mb{p}^{'}|}
=\mfrac{h}{\,(p^{'2}_{x}+p^{'2}_{y}+p^{'2}_{z})^{\reverse{2}}\,}=\mfrac{h}{\,P^{'}\,}
\tag{31}
\end{equation*}
ここで $P^{'}$ はベクトル $\mb{p}^{'}=(p^{'}_{x},p^{'}_{y},p^{'}_{z})$ の長さである.
そしてこの運動の方向はベクトル $\mb{p}^{'}$ で指定され, 波の伝搬速度 $v_{\text{phase}}$ は上の 2 式, そして式(26) から$v^{'}=c^{2}P^{'}/H^{'}$ を用いて次となる:
\begin{equation*}
v_{\text{phase}}=\lambda\,\nu=\mfrac{h}{P^{'}}\cdot\mfrac{H^{'}}{h}
=\mfrac{H^{'}}{P^{'}}=\mfrac{c^{2}}{v^{'}}
\tag{32}
\end{equation*}
この $v^{'}$ は粒子の速さであり, 公式(26) で与えられる運動量 $(p^{'}_{x},\,p^{'}_{y},\,p^{'}_{z})$ に相当するものである.
式(30), 式(31) そして式(32) が全てのローレンツ基準座標系において成立することは容易に分かる.
式(29) の右辺の表現は, 実際, $4$-ベクトル: $(H^{'}/c,\,p^{'}_x,\,p^{'}_y,\,p^{'}_z)$ の成分に関して相対論的に不変なものである.
(参考5). 式(29) の右辺指数関数の指数部における変数 $\mb{p}^{'}\cdot\mb{x}-H^{'}t$ は,4 元運動量ベクトル $p_{\mu}$ と 4 元座標ベクトル $x^{\mu}$ とのスカラー積 $p_{\mu} x^{\mu}$ である:
\begin{align*}
p_{\mu} &=g_{\mu\nu} p^{\nu}=(H^{'}/c,\,-p_x,\,-p_y,\,-p_z),\quad x^{\mu}=(ct,\,x,\,y,\,z),\quad
g_{\mu\nu}=(+,\,-,\,-,\,-)\\
p_{\mu} x^{\mu}&=(H^{'}/c,\,-p_x,\,-p_y,\,-p_z)\cdot(ct,\,x,\,y,\,z)=(H^{'}/c)\cdot ct-p_xx-p_yy-p_zz\\
&=H^{'}t-p_xx-p_yy-p_zz\\
\therefore&\quad p_\mu x^{\mu}=H^{'}t-\mb{p}^{'}\cdot\mb{x}
\end{align*}
このことから, 関数 $\psi(xyzt)$ は相対論的に不変であることは明らかである.
これらの相対論的不変性からド・ブロイ (de Broglie) は量子力学が発見される前に, 式(29) の形をした波が任意の粒子の運動に結び付いて存在することを仮定したのである.従って, それらは「ド・ブロイ波」(de Broglie waves) として知られている.
質量 がゼロに近づいて行く極限の場合には, 粒子の古典的速度 $v$ は $c$ に等しくなって行く.従って, 式(32) から波の伝搬速度も $c$ になって行く.そのとき, その波は光子に伴う光波 (light-waves associated with a photon) に似たものとなる.違う点は, それらは偏極への言及を含んでいない (contain no reference to) ことと, サイン波 (sines) またはコサイン波 (cosines) の代わりに複素ポテンシャルを含んでいることである.公式(30) と公式(31) はこの極限でも成り立っていて, それらは光波の周波数と光子のエネルギーとを結び付け, また光波の波長と光子の運動量とを結び付ける式となっている.
式(29) で表現される状態 (すなわち自由粒子) の場合, 粒子の位置を観測した時に粒子がある指定された小体積中で見出される確率はその体積の位置に依存しない.これはハイゼンベルグの不確定性原理の例を与えるものであって, それは運動量が正確に与えられた状態であり, その結果, 位置は完全に不定となっているのである.そのような状態はもちろん極限的な場合であって実際には決して起こらない.実際に経験する (meet with) 通常の状態は波束で表現されるようなものである.それは § 24 で議論したように,式(29) の種類の波で $(p^{'}_{x},p^{'}_{y},p^{'}_{z})$ が僅かに異なるものを多数重ね合わせて作ることができる.流体力学に於けるそのような波束の速度の通常の公式, すなわち波の「群速度」(group velocity)は,
\begin{equation}
v_{g}=\frac{d \omega}{d k}=\frac{d (2\pi\nu)}{d (2\pi/\lambda)}=\mfrac{d\nu}{d(1/\lambda)}
\tag{33}
\end{equation}
である.式(30)と式(31)そして式(32) から $H^{'}/P^{'}=c^{2}/v^{'}$ である.よって上式は次を与える:
\begin{align}
v_{g} &= \frac{d\, \nu}{d (1/\lambda)}=\frac{d (H^{'}/h)}{d (P^{'}/h)}
=\frac{d H^{'}}{d P^{'}}=c\,\frac{d\ \,}{d P^{'}}\sqrt{m^{2}c^{2}+P^{'2}}
=\mfrac{c^{2}P^{'}}{c\sqrt{m^{2}c^{2}+P^{'2}}}\notag \\
&=\mfrac{c^{2}P^{'}}{H^{'}}=c^{2}\times \mfrac{v^{'}}{c^{2}}=v^{'}
\tag{34}
\end{align}
これはちょうど粒子の速度である.波束は古典力学における粒子の運動と同じ方向と同じ速さで動くのである!.