ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

式 (4-37)と式 (5-29) の違い

式 (4-37)と式 (5-29) は似た形をしており, 初心者には紛らわしかった.よく見れば違った式で, 言っている内容も異なっているようだ.その点をまとめておこう.そしてついでに, 本文 p. 102 の「式 (4-37) より式 (5-29) が得られる」という部分の導出手順も示しておこう.


[ A ]. 「状態 $f(x)$ が特性 $G$ を確かに持つためには, 状態 $f(x)$ はどんな関数であるべきであろうか?」.( 例えば, 運動量が確定している粒子に対する波動関数はどんなものであろうか? ).すなわち, 装置を通過して行く粒子が確実に $\zeta$ に到着し, 他の位置 $\zeta^{'}$ には行かないような $f(x)$, それを例えば $F(x)$ としよう, を我々は見出したいのである.$\zeta^{'}$ に到着する振幅は $\delta(\zeta-\zeta^{'})$ に比例する ( すなわち $\zeta^{'}=\zeta$ 以外ではゼロである ) べきである.従って, $ \def\ket#1{|#1\rangle} \def\bra#1{\langle#1|} \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} \def\mfrac#1#2{\frac{#1}{#2}} $

\begin{equation} \int dx\,K_{exp}(\zeta^{'},x)F(x)=\delta(\zeta-\zeta^{'}) \tag{5-28} \end{equation}

これは, 第4-1節で議論した「核の複素共役とその逆元 との関係」によって解くことが出来る (This we can solve by the relation of the complex conjugate of a kernel to its inverse, discussed in Sec. 4-1)*1

(a). 式 (4-37)は「$\psi$ を確率振幅として解釈するために核が満たすべき条件式」である.

確率振幅 $\psi$ は, 核を用いて次に書き表すことができる:

\begin{equation} \psi(2)=\int dx_1\,K(2,1)\,f(1) \end{equation}

このとき $\psi$ が「確率振幅」として解釈するためには, 核 $K(2,1)$ が次の式 (4-37) を満たす必要がある:

\begin{equation} \int dx_2\,K^{*}(2;x'_1,t_1)K(2;x_1,t_1)=\delta(x'_1-x_1) \tag{4-37} \end{equation}

このとき, 積分は到着点 $x_2$ について行うことに注意する.

(b). それに対して, 式 (5-29) は「$g^{*}(x)=K_{exp}(\zeta,x)$ が特性関数であるための条件式」である.

確率振幅 $\psi(G)$ が次で定義されるとする:

\begin{equation} \psi(G)=\int dx\,K_{exp}(\zeta,x)\,f(x)=\int dx\,g^{*}(x)\,f(x) \label{eq2} \end{equation}

例えば, 特性 $G$ が運動量 $p$ の場合で示すならば次である:

\begin{equation} \psi(p)=\int dx\,g^{*}(x)\,f(x) =\int dx\,\exp\left( -\frac{i}{\hbar} p\, x \right)\,f(x) \label{eq3} \end{equation}

ただし $g(x)=e^{i p x/\hbar}$ は, 運動量が $p$ であるときに, 粒子が位置 $x$ に存在する振幅である.

f:id:clrice9:20190314153315p:plain:w600
( 図 5-5 ) 特性 $G$ を測定するために設計された装置を, 波動関数$f(x)$ を持つ入射粒子の始点と終点 $y$ の間に置く.装置は, 運動の核を変化させ, それを $g^{*}(x)$ に等しいものにする. 積$g^{*}(x)f(x)$ を $x$ で積分した $\psi(G)$ は「装置を通過した後 $y=\zeta$ に到着する振幅」である.(原書の図は少し分かりづらいので, 校訂版の修正された図を示す).

このとき「振幅 $\psi(G)$ は系が性質 $G$ を持つこと」, または「$g^{*}(x)$ が性質 $G$ の特性関数」であるためには, 核 $K_{exp}(\zeta,x)$ が次の式 (5-29) を満たす必要がある:

\begin{equation} \int dx\,K_{exp}(\zeta',x)\,K^{*}_{exp}(\zeta,x)=\delta(\zeta-\zeta') \tag{5-29} \end{equation}

この場合の積分は, 式 (4-37) とは対照的に, 出発点 $x$ について行うことに注意する.

[ B ]. 式(5-29)を式 (4-37) から導いてみよう.確率振幅について $\psi^{*}\psi$ が一定であることの議論から式 (4.37) が得られた:

\begin{equation} \int dx_2\,K^{*}(2;x'_{1},t_1)K(2;x_1,t_1)=\delta(x'_1-x_1) \label{eq4} \end{equation}

ここでもしも「時刻 $t_2$ は時刻 $t_1$ より以前である」と考えるならば, 式 (4.38) での結果から  K^{*}(2,1) は $K(1,2)$, また $K(2,1)$ は K^{*}(1,2) に置き換えてよい.よって,

\begin{equation} \int dx_2\,K(x'_{1},t_1;2)K^{*}(x_1,t_1;2)=\delta(x'_1-x_1),\quad\text{where}\quad t_2 < t_1 \label{eq5} \end{equation}

分かり易いように , 単なる数字の入れ替え $1\leftrightarrow 2$ をするならば,

\begin{equation} \int dx_1\,K(x'_{2},t_2;1)K^{*}(x_2,t_2;1)=\delta(x'_2-x_2),\quad\text{where}\quad t_1 < t_2 \label{eq6} \end{equation}

今の場合, 到着する位置 $x_2$ は $\zeta$ と表記しているので, 出発点 $x_1$ も $x$ として上式を書き直すならば式 (5.29) となる:

\begin{equation} \int dx\,K_{\mathrm{exp}}(\zeta^{'},x)\,K^{*}_{\mathrm{exp}}(\zeta,x)=\delta(\zeta^{'}-\zeta) \label{eq7} \end{equation}

すると, 式 \eqref{eq2} と式 \eqref{eq7} との比較から次であるべきである:

\begin{equation} F(x)=K^{*}_{\mathrm{exp}}(\zeta,x)=g(x) \label{eq8} \end{equation}

すなわち, 関数 $g(x)$ は「特性 $G$ を確実に持っている粒子の波動関数」である.我々は「粒子は性質 $G$ を持つ」と言っても良いし「粒子は状態 $g(x)$ にある」と言っても良いのである.

*1:和訳本では, 次のような訳になっているので注意する:「核の複素共役とその逆数 との関係から4-1節で示したようにこれを解くことができる」.