問題3-10では,「電磁場に於ける荷電粒子の運動」を扱っている.この場合, 荷電粒子は速度に依存したポテンシャルを受けながら運動することになる.そこで問題に答える準備として, まず「速度依存ポテンシャル」について, テル・ハール:「解析力学」の第2章から抜粋してまとめたものを書いておこう.ただし式はGauss単位系に換算した表現に書き換えてある.
束縛
$N$個の質点系が系内の力(内力)と系の外側からの力(外力)を受けて運動する場合を考える.$i$ 番目の質点の座標 $\mathbf{x}_i$, それに作用する力を $\mathbf{F}_i$ とする.力 $\mathbf{F}_i$ は, 系内の他の質点からの力 $\mathbf{F}_i^{int}$ と外場による力 $\mathbf{F}_i^{ext}$ とに分けられ, 次に書くことが出来る:
$
\def\ket#1{|#1\rangle}
\def\bra#1{\langle#1|}
\def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle}
\def\BraKet#1#2#3{\langle#1|#2|#3\rangle}
\def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}}
\def\odiff#1{\frac{d}{d #1}}
\def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}}
\def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}}
\def\Bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}}
\def\mb#1{\mathbf{#1}}
\def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}}
$
\begin{equation}
\mb{F}_i=\mb{F}_i^{int}+\mb{F}_i^{ext}
\tag{1}
\end{equation}
この系は $3N$ 個の自由度を持っており, 受けている力 $\mb{F}_i$ を知れば, 運動の連立方程式を解くことが原理的には可能である.
しかし多くの場合, 全ての力が分かっていることはまず有り得ない.また中には, 実際の自由度は $3N$ よりもはるかに少ないと言うような系がある.例えば, 質点が空間の決まった曲線または曲面に「拘束された」運動では, 質点は与えられた外力 $\mb{F}$ の他に曲面または曲線から「拘束力」$\mb{S}$を受けて運動するために, その粒子の持つ自由度は少なくなってしまう.この「拘束」または「束縛」には3種類がある.
(1) 質点間の距離を一定に保つ束縛,
(2) 質点が特定の面上或いは曲線上を運動することを要求する束縛,
(3) 質点の運動, すなわち系を特定の空間領域に制限する束縛.
最初の2つの場合, 束縛は座標が満足すべき条件式
\begin{equation}
G_{l}(\mb{x}_1,\dotsb,\mb{x}_i,\dotsb,\mb{x}_N)=0
\tag{2}
\end{equation}
の形で表現される.この型の束縛は「運動条件」または「ホロノミックな束縛」と言われる.
(3)の束縛は次の不等式
\begin{equation}
G_{m}(\mb{x}_1,\dotsb,\mb{x}_i,\dotsb,\mb{x}_N)\ge 0
\tag{3}
\end{equation}
の形で表され, これを前の二つの場合との対比で,「非ホロノミックな束縛」と呼ぶ.この他にも, 微分形でしか表せないというような非ホロノミックな束縛がある.それは「積分不能条件」と言われる種類のもので, そのような束縛を持つ物理系の一例は「輪回し」である.輪が地面に接する点の座標を $x,y$ とし, 輪がどれだけ回転したかを示す角度を $\theta$ とすれば, 純粋な回転運動であるための条件は, $R$ を輪の半径として次となる:
\begin{equation}
\delta x^{2}+\delta y^{2}=R^{2}\delta \theta^{2}
\tag{4}
\end{equation}
一般に, 式(2)の型の $p$ 個の束縛条件に加えて, 次の $r$ 個の「積分不能条件」が課されている系について考えてみる:
\begin{equation}
\sum_k a_k^{(j)}\,\delta q_k=0,\quad j=1,2,\dotsb,r
\tag{5}
\end{equation}
式(5)はすでに「一般化座標」すなわち系の状態を完全に定める独立変数 $q_k$ で書かれてあり「ホロノミックな束縛条件」は考慮済みであるとする.この系に「ハミルトンの変分原理」:
\begin{equation}
\delta S=\delta \int_{t_1}^{t_2} L\,dt=\int_{t_1}^{t_2} \delta L\,dt=0
\tag{6}
\end{equation}
を適応すると,
\begin{equation}
0=\int_{t_a}^{t_b} \sum_k\left[\ppdiff{L}{q_k}-\frac{d}{dt} \ppdiff{L}{\dot{q}_k}\right] \delta q_k dt
\tag{7}
\end{equation}
これに次の条件を課す:
\begin{equation}
\text{when}\quad t=t_1,\ t=t_2,\quad \delta q_k=0
\tag{8}
\end{equation}
するとこの場合, 任意の時刻で式(5)が満たされなければならないので, $\delta q_k$ はもはや独立ではない.この困難を解決するには, 「ラグランジュの未定乗数法」を使えば良く, 未定定数を $\lambda_j$ とすると次式が得られる:
\begin{equation}
\int_{t_a}^{t_b} \sum_k\left[\ppdiff{L}{q_k}-\frac{d}{dt}
\ppdiff{L}{\dot{q}_k}+\sum_{j=1}^{r}\lambda_{j} a_{k}^{(j)}\right] \delta q_k dt=0
\tag{9}
\end{equation}
この段階になれば $\delta q_k$ を独立変数として扱うことができて, その結果, 次の運動方程式が得られる:
\begin{equation}
\frac{d}{dt}\ppdiff{L}{\dot{q}_k}-\ppdiff{L}{q_k}-\sum_{j=1}^{r}\lambda_{j} a_k^{(j)}=0
\tag{10}
\end{equation}
ここまでの議論は, ポテンシャル $U$ が $q_k$ だけでなく $\dot{q}_k$ を含んだ場合でも成り立つことは明らかだ.すると,
\begin{equation*}
L=T(q_k,\dot{q}_k)-U(q_k,\dot{q}_k)
\end{equation*}
と書けるから, 方程式(10)は独立変数だけを含んだ $3N-r$ 個の次のような運動方程式
\begin{equation}
\frac{d}{dt}\ppdiff{T}{\dot{q}_k}-\frac{d}{dt}\ppdiff{U}{\dot{q}_k}-\ppdiff{T}{q_k}+\ppdiff{U}{q_k}=0
\tag{11}
\end{equation}
に書き換えることが出来る.
速度依存するポテンシャルの例
速度依存するポテンシャル $U(q,\dot{q})$ を持つ重要な例は「電磁場に於ける荷電粒子の運動」である.電場を $\mb{E}$, 磁場を $\mb{H}$ としよう.それらは, 次のMaxwell方程式の第1組から導かれる:
\begin{equation}
\mb{H}=\text{rot}\,\mb{A},\quad \mb{E}=-\frac{1}{c}\ppdiff{\mb{A}}{t}-\nabla \phi
\tag{12}
\end{equation}
実際, ラグランジアン $L=T-U$ を,
\begin{equation}
L=T-U(\mb{x},\dot{\mb{x}})=\frac{m}{2}\dot{\mb{x}}^{2}-e\phi(\mb{x})+\frac{e}{c}\mb{A}(\mb{x})\cdot\dot{\mb{x}}
\tag{13}
\end{equation}
とおけば, 式(11)から運動方程式を導くことが出来る.ただしその際に, 微分 $d\mb{A}$ は二つの部分からなること, すなわち, 空間の一点に於けるベクトルポテンシャルの時間変化及び空間の一点からの距離 $d\mb{x}$ だけ移動することによる変化から成ることに注意して, ベクトルポテンシャル $\mb{A}$ の時間微分は次の関係式を持つことを用いる必要がある:
\begin{align}
d\mb{A}&=\ppdiff{\mb{A}}{t}dt+\ppdiff{\mb{A}}{\mb{x}}\cdot d\mb{x}\notag\\
\therefore\quad &\frac{d\mb{A}}{dt}=\ppdiff{\mb{A}}{t}+\left(\nabla \mb{A}\right)\cdot\frac{d\mb{x}}{dt}
=\ppdiff{\mb{A}}{t}+\dot{\mb{x}}\cdot\left(\nabla \mb{A}\right)
\tag{14}
\end{align}
式(11)に運動エネルギー , そして式(13)のポテンシャル 部分 $U$ を代入する.すると,
\begin{align}
&\ppdiff{U}{\dot{\mb{x}}}=-\frac{e}{c}\mb{A},\notag\\
&\ppdiff{U}{\mb{x}}=e\nabla\phi -\frac{e}{c}\nabla\left(\mb{A}\cdot\dot{\mb{x}}\right)
\tag{15}
\end{align}
ここで上の第2式の第2項に次のベクトル解析の公式を利用する:
\begin{equation}
\nabla(\mb{a}\cdot\mb{b})=(\mb{a}\cdot\nabla)\mb{b}+(\mb{b}\cdot\nabla)\mb{a}+\mb{b}\times\text{rot}[\,\mb{a}\,]+\mb{a}\times\text{rot}[\,\mb{b}\,]
\tag{16}
\end{equation}
$\mb{x}$ についての微分は $\mb{v}$ を一定にして行われることに注意すれば $\nabla\dot{\mb{x}}=0$, $\text{rot}\,\dot{\mb{x}}=0$ となるので,
\begin{equation*}
\nabla(\mb{A}\cdot\dot{\mb{x}})=(\dot{\mb{x}}\cdot\nabla)\mb{A}+\dot{\mb{x}}\times\text{rot}\,\mb{A}
\end{equation*}
よって式(15)の第2式は,
\begin{equation}
\ppdiff{U}{\mb{x}}=e\nabla \phi-\frac{e}{c}\dot{\mb{x}}\cdot\nabla\mb{A}-\frac{e}{c}\dot{\mb{x}}\times\text{rot}\,\mb{A}
\tag{17}
\end{equation}
以上を用いると運動方程式の式(11)は,
\begin{equation*}
m\ddot{\mb{x}}-\frac{e}{c}\frac{d\mb{A}}{dt}+e\nabla \phi -\frac{e}{c}\dot{\mb{x}}\nabla\mb{A}
-\frac{e}{c}\times\text{rot}\,\mb{A}=0
\end{equation*}
よって, 次の運動方程式を得る:
\begin{equation}
m\ddot{\mb{x}}=-e\nabla\phi -\frac{e}{c}\ppdiff{\mb{A}}{t}+\frac{e}{c}\dot{\mb{x}}\times\text{rot}\,\mb{A}=\mb{F}
\tag{18}
\end{equation}
このとき式(12)から, $\mb{F}$ はまさに「ローレンツ力」になっていると言える:
\begin{equation}
\mb{F}=e\mb{E}+\frac{e}{c}\mb{v}\times\mb{H}
\tag{19}
\end{equation}