ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

電磁気学の相対論的記述 part 2

4次元の勾配

次に議論すべきは勾配の4次元的な類似物についてである. Vol. I の第14章で, 3つの演算子 $\partial/\partial x$, $\partial/\partial y$, $\partial/\partial z$ が3次元ベクトルと同じ変換性を持ち「勾配」と呼んだことを思い出そう.同じ構成仕組みが4次元でも有効に作動すべきである (The same scheme ought to work in four dimentions).すなわち, 4次元的な勾配は $(\partial/\partial t,\partial/\partial x, \partial/\partial y, \partial/\partial z)$ だと推測するかも知れない.しかしこれは間違いである!

間違いであることが分かるために, $x$ と $t$ だけに依存するスカラー関数 $\phi$ を考えてみる. $x$ を一定に保っておいて $t$ に微小な変化 $\Delta t$ をさせたときの $\phi$ の変化は次である: $ \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} $

\begin{equation} \Delta \phi =\ppdiff{\phi}{t}\Delta t. \tag{25.13} \end{equation}

他方, 運動している観測者によると, それは

\begin{equation*} \Delta \phi =\ppdiff{\phi}{x'}\Delta x' +\ppdiff{\phi}{t'}\Delta t' \end{equation*}

である.前述のブログに示した式 (25.1) を用いると, $\Delta x'$ と $\Delta t'$ は $\Delta t$ で表すことが出来る.$x$ は一定に保っていることを思い出そう.従って $\Delta x=0$ である.よって次式が書ける:

\begin{equation*} \Delta x' = \frac{\Delta x -v\Delta t}{\sqrt{1-v^{2}}}=\frac{-v\Delta t}{\sqrt{1-v^{2}}},\quad \Delta t' = \frac{\Delta t -v\Delta x}{\sqrt{1-v^{2}}}=\frac{\Delta t}{\sqrt{1-v^{2}}} \end{equation*}

これを前式に代入すれば,

\begin{align*} \Delta \phi &= \ppdiff{\phi}{x'}\left(\frac{-v\Delta t}{\sqrt{1-v^{2}}}\right) +\ppdiff{\phi}{t'}\left(\frac{\Delta t}{\sqrt{1-v^{2}}}\right)\\ &=\frac{1}{\sqrt{1-v^{2}}}\left(\ppdiff{\phi}{t'}-v\ppdiff{\phi}{x'}\right)\Delta t \end{align*}

この結果を式 (25.13) と比べることにより, 次であることを知る:

\begin{equation} \ppdiff{\phi}{t}=\frac{1}{\sqrt{1-v^{2}}}\left(\ppdiff{\phi}{t'}-v\ppdiff{\phi}{x'}\right). \tag{25.14} \end{equation}

同様な計算から次も得られる:

\begin{equation} \ppdiff{\phi}{x}=\frac{1}{\sqrt{1-v^{2}}}\left(\ppdiff{\phi}{x'}-v\ppdiff{\phi}{t'}\right). \tag{25.15} \end{equation}

ここで, 勾配が多少おかしいことが分かる.$x$ と $t$ を $x'$ と $t'$ で表現する公式は次であった:

\begin{equation*} t=\frac{t'+vx'}{\sqrt{1-v^{2}}},\quad x=\frac{x'+vt'}{\sqrt{1-v^{2}}}. \end{equation*}

これが4ベクトルの変換する仕方であるべきである.しかし式 (25.14) と式 (25.15) は数個の符号が違っている!.

正解は以下のようである.「4次元の勾配演算子は $\nabla_{\mu}$ と表記し, 間違った $(\partial/\partial t,\nabla)$ の代わりに,

\begin{equation} \nabla_{\mu}=\left(\pdiff{t},-\nabla\right)=\left(\pdiff{t},-\pdiff{x},-\pdiff{y},-\pdiff{z}\right) \tag{25.16} \end{equation}

定義するべきである」.このように定義すると, 上記で遭遇した符号の難点は消え, そして $\nabla_{\mu}$ は4ベクトルがするべき振る舞いをするようになる.(このような負符号を付けるのは幾分戸惑うことであるが, 自然はそうなっているのである!).当然ながら「$\nabla_{\mu}$が4ベクトルのように振る舞う」というのは単に「スカラーの4元勾配は4ベクトルになる」という意味である.つまり $\phi$ が真のスカラー不変の場 (ローレンツ不変) ならば, そのとき $\nabla_{\mu}\phi$ は4ベクトルになっている.

さあ (all right), 今やベクトル, 勾配そして内積が得られた.次は, 3次元ベクトル解析の「発散」に類似する不変量を見出すことだ.類似物の表現が $\nabla_{\mu} b_{\mu}$ の形であるべきことは明らかである.ただし $b_{\mu}$ は4ベクトルの場でありその成分は空間と時間の関数であるとする.4ベクトル $b_{\mu}=(b_{t},\mb{b})$ の「発散」は $\nabla_{\mu}$ と $b_{\mu}$ の内積として定義する:

\begin{equation} \nabla_{\mu}b_{\mu}=\pdiff{t}b_{t}-\left(-\pdiff{x}\right)b_x-\left(-\pdiff{y}\right)b_y -\left(-\pdiff{z}\right)b_z =\pdiff{t}b_t +\nabla\cdot\mb{b} \tag{25.17} \end{equation}

ただし $\nabla\cdot\mb{b}$ は3次元ベクトル $\mb{b}$ の通常の「3次元の発散」である.また符号に注意しなければいけない.マイナス符号のいくつかは 前述したブログに於ける式 (25.7)スカラー積の定義に由来する.しかしそれ以外が必要なのは, 式 (25.16) の$\nabla_{\mu}$ の空間成分が $-\partial/\partial x$ などであるからである.式 (25.17) で定義された「発散」は不変量であり, ローレンツ変換による差だけが異なる全ての座標系で同じ回答をする(同じ値となる).

4ベクトルが現れる物理例を見てみよう.運動する電線の周りの場の問題を解くのにそれを利用できる.すでに §13-7 で電荷密度 $\rho$ と電流密度 $\mb{j}$ が4ベクトル $j_{\mu}=(\rho,\mb{j})$ を形成することを確認した.電荷を帯びていない電線 ($\rho=0$) が電流 $j_{x}$ を流しているとする.すると ($x$ に沿って) 速さ $v$ で通り過ぎる系からそれを見ると, 電線は次のような ( 式 (25.1)ローレンツ変換から得られる ) 電荷と電流密度を持っているであろう:

\begin{equation*} \rho'=\frac{\rho-vj_{x}}{\sqrt{1-v^{2}}}=\frac{-vj_{x}}{\sqrt{1-v^{2}}},\quad j'_{x}=\frac{j_{x}-v\rho}{\sqrt{1-v^{2}}}=\frac{j_{x}}{\sqrt{1-v^{2}}} \end{equation*}

これらはちょうど第13章で見出した式になっている.

これらの源を運動している系に於けるマクスウェル方程式に用いることで場を求めることが出来る. (前述したブログ:「 Liénard-Wiechert の点ポテンシャルについて」の最後の方を参照されたい).

§ 13-2 の電荷保存則も, 4ベクトル表記を用いると簡単な形になる ( take on a simple form in four-vector notation ).$j_{\mu}$ の4元の発散を考える:

\begin{equation} \nabla_{\mu} j_{\mu} = \ppdiff{\rho}{t}+\nabla\cdot\mb{j} \tag{25.18} \end{equation}

電荷の保存則は「単位体積当たりのカレントの流出は電荷密度の増加割合にマイナス符号を付けたものに等しくなければならないこと」を主張する (say).すなわち (In other words),

\begin{equation} \nabla\cdot\mb{j}=-\ppdiff{\rho}{t}. \notag \end{equation}

これを式 (25.18) の中へ代入すると, 電荷の保存則は簡単な形になる:

\begin{equation} \nabla_{\mu}j_{\mu}=\ppdiff{\rho}{t}+\nabla\cdot\mb{j}=\ppdiff{\rho}{t}-\ppdiff{\rho}{t}=0 \tag{25.19} \end{equation}

$\nabla_{\mu}j_{\mu}$ は不変なスカラー量であるから, 一つの系でゼロであるならばそれは全ての系でゼロである.「電荷が一つの座標系で保存されるならば, 一定速度で運動する全ての系でそれは保存される」という結論を得たわけである.

最後の例として勾配演算子$\nabla_{\mu}$とそれ自身とのスカラー積を考えて見たい.3次元ではそのようなスカラー積はラプラシアンを与える:

\begin{equation} \nabla^{2}=\nabla\cdot\nabla = \bpdiff{x}+\bpdiff{y}+\bpdiff{z}. \notag \end{equation}

4次元ではどうなるであろうか?.それは簡単である.内積と勾配についての規則に従うことで次を得る:

\begin{equation} \nabla_{\mu}\nabla_{\mu}=\pdiff{t}\pdiff{t}-\left(-\pdiff{x}\right)\left(-\pdiff{x}\right)- \left(-\pdiff{y}\right)\left(-\pdiff{y}\right)-\left(-\pdiff{z}\right)\left(-\pdiff{z}\right) =\bpdiff{t}-\nabla^{2} \notag \end{equation}

この演算子は3次元のラプラシアンの類似物であり,「ダランベール演算子」(d'Alembertian) と呼ばれており次のような特別な表記がなされる:

\begin{equation} \square^{2}=\nabla_{\mu}\nabla_{\mu}=\bpdiff{t}-\nabla^{2} \tag{25.20} \end{equation}

これはその定義から不変なスカラー演算子である.従って, それが4ベクトル場に作用するならば, 新たな4ベクトル場を生成することになる.(ダランベール演算子を式 (25.20) とは反対の符号で定義する人もいるので, 論文を読む場合には注意が必要である.これは計量テンソルの符号に $[- + + +]$ を用いる場合で, 内山などがそうである).

( 現在の教科書などではこの $\nabla_{\mu}$ を共変ベクトル $\partial_{\,\mu}$ と表現しているようだ.また Dirac は曲線座標での偏微分 $\displaystyle{\partial_{\mu} Q=\ppdiff{Q}{x^{\mu}}}$ を $Q_{,\,\mu}$ と表現している.更に現在では, 共変ベクトルと反変ベクトルとの内積はその添字を上と下に書くことにしているようである:$(A^{\mu}B_{\mu}=A^{0}B_{0}+A^{1}B_{1}+A^{2}B_{2}+A^{3}B_{3})$.よって, 式 (25.7) は現在では次のように書かれる:

\begin{equation} \partial_{\,\mu} b^{\mu}=\left(\frac{\partial}{c \partial t},-\nabla\right)\bigl(b^{0},\mb{b}\bigr) =\frac{\partial \, b^{0}}{c \partial t} +\nabla\cdot\mb{b} \tag{25.17'} \end{equation}

Dirac も場の量 $Q$ の微分は $\delta Q=Q_{,\,\mu}\,\delta x^{\,\mu}$ と表現している ).詳しくは次の英語版のWikipediaを見よ:

Four-gradient - Wikipedia

電磁場の相対性

上記の理解のために, §13-6 を抜粋して述べておこう.

電荷に働く全電磁力はローレンツ力と呼ばれ次に書かれた:

\begin{equation} \mb{F}=q\mb{E}+\frac{q}{c}\mb{v}\times\mb{H} \tag{13.1} \end{equation}

しかし磁場 $\mb{H}$ が与えられているとき, この式中の速度 $\mb{v}$ はどんな座標系を基準としたどんな速度であるべきなのであろうか?.それは任意の慣性系が正当な座標系であることが分かっている.

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2つの系から見た場合の電流の流れている電線と負電荷 $q(-)$ を帯びた粒子との相互作用.(a)の系 $S$ では, 電線が静止している.(b)の系 $S'$ では, 電荷が静止している.

それを理解するために, 電流が流れている電線に平行に, 一つの負電荷が速さ $v_0$ で運動している場合を考える.電流の流れている電線を微視的に見ていると, 銅のような通常の導体では伝導電子が系 $S$ に固定された結晶格子中を運動している.伝導電子電荷密度を $\rho_{-}$ とし系 $S$ での速度を $\mb{v}$ とする.電線は電荷を帯びていないと仮定すると, 系 $S$ に静止している電荷密度 $\rho_{+}$ は $-\rho_{-}$ に等しく電線の外側に電場は存在しない ( すなわち $\mb{E}=0$ ).従って運動している負電荷に働く力は, アンペールの法則を用いると電線の軸から $r$ の位置に出来る磁場は内向きに次の大きさ書ける:

\begin{equation} \mb{F}=\frac{q}{c}\,\mb{v}_0\times\mb{H}\quad\rightarrow\quad F=\frac{q(-)}{c} v_0\frac{2}{cr}I=\frac{2qv_0}{c^{2} r}\cdot \rho_{-}vA=\frac{2qA}{r}\frac{v^{2}}{c^{2}}\rho_{-} \tag{13.21} \end{equation}

ただし粒子速度 $v_0$ は伝導電子の速度 $v$ に等しいとし, 電線の断面積を $A$ とすると電流 $I$ は $\rho_{-}vA$ に書けることを利用した.

以上のことを電荷が静止している系 $S'$ から見ると, 電線が逆向きに速さ $v$ で走り過ぎることになる.従って電線と一緒に運動している結晶格子の持つ正電荷 $\rho_{+}$ は粒子の位置に磁場 $H'$ を生成する.しかし電荷は静止しているので電荷に働く磁気力はゼロである. 他方, 帯電していない電線が運動すると, 電流は帯電しているように見え, それによる電場が生成される.その電荷密度の大きさ $\rho$ は, 電線の長さが運動方向へローレンツ収縮する理由で次となる:

\begin{equation} L=L_{0}\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}\quad,Q=\rho L A=\rho_{0}L_{0}A,\quad\rightarrow\quad \rho=\rho_{0}\frac{L_{0}}{L}=\frac{\rho_0}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}} \tag{13.23} \end{equation}

これを電線の正電荷負電荷に当てはめる.正電荷は系 $S'$ から見ると速度 $v^{'}_{+}=-v$ で運動している (図(b)を見よ).負電荷は系 $S$ から見ると速度 $v_{-}=v$ で運動している (図(a)を見よ).以上から,

\begin{align} &\rho^{'}_{+}=\frac{\rho_{+}}{\sqrt{1-(-v)^{2}/c^{2}}}=\frac{\rho_{+}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}},\tag{13.24}\\ &\rho_{-}=\frac{\rho_{-}^{'}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}}\quad\rightarrow\quad \rho_{-}^{'}=\rho_{-}\sqrt{1-v^{2}/c^{2}} \tag{13.25} \end{align}

静止している電線は帯電していないとしたから $\rho_{-}=-\rho_{+}$ であることをもちいると, 系 $S'$ での電線の正味の電荷密度は次となる:

\begin{equation} \rho^{'}=\rho^{'}_{+}+\rho^{'}_{-}=\frac{\rho_{+}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}}+\rho_{-}\sqrt{1-v^{2}/c^{2}} =\rho_{+}\frac{v^{2}/c^{2}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}} \tag{13.27} \end{equation}

これより系 $S'$ から見て速度 $-v$ で運動している電線は正に帯電していることが分かり, 従ってその外部で静止している粒子の位置に電場 $E^{'}$ を作ることになる.その大きさは「長さ $l$ の円筒中の線電荷が円筒軸から $r$ のところに作る電場の大きさである」としてガウスの定理を用いて求められる:

\begin{equation} E^{'}\cdot 2\pi r l=4\pi\rho^{'} A l \quad\rightarrow\quad E^{'}=\frac{2\rho^{'}A}{r}=\frac{2\rho_{+}Av^{2}/c^{2}}{r\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}} \tag{13.28} \end{equation}

$S^{'}$ 系から見ると, この電場により負電荷を帯びている粒子には電線の向きに次の大きさの力が働く:

\begin{equation} F^{'}=q E^{'}=\frac{2q\rho_{+}A}{r}\frac{v^{2}/c^{2}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}} =\frac{2qA}{r}\frac{v^{2}}{c^{2}}\frac{\rho_{+}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}} \tag{13.29} \end{equation}

以上の結果式 (13.21) と式 (13.29) とは, 同じ物理現象をローレンツ変換によって違う見方をした結果であると解釈できる.よって,

\begin{equation} F=F^{'}\quad\rightarrow\quad \frac{2qA}{r}\frac{v^{2}}{c^{2}}\rho_{-}=\frac{2qA}{r}\frac{v^{2}}{c^{2}}\frac{\rho_{+}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}}\quad \therefore\quad \rho_{-}=\frac{\rho_{+}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}} \notag \end{equation}

すなわち静止系の電荷密度を $\rho_{0}$ とすると, 電荷の速度が $\mb{v}$ である座標系での電荷密度と電流密度は次となる:

\begin{equation} \rho=\frac{\rho_{0}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}},\quad \mb{j}=\rho\mb{v}=\frac{\rho_{0}\mb{v}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}} \tag{13.34} \end{equation}

これらは一緒になって相対論的4元ベクトルを成す: $$ j^{\mu}=(c\rho,\mb{j}) $$ それは静止質量 $m_{0}$ の粒子が速度 $\mb{v}$ で運動しているときに持つエネルギーと運動量が次で与えられることから推察することが出来る:

\begin{equation} \frac{E}{c}=\frac{m_{0}c}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}},\quad c\mb{p}=\frac{m_{0}c\mb{v}}{\sqrt{1-v^{2}/c^{2}}} \tag{13.35} \end{equation}

なぜなら, 式 (13.34) の電荷密度と電流密度は, 速度との関係がちょうど式 (13.35) のエネルギーと運動量と同じであることが分かるからである.

以上のように, 異なる座標系を選ぶと異なる場 $\mb{E}$ と $\mb{H}$ の混合となる.電気力と磁気力とは,「粒子の電磁相互作用」という 一つの物理現象 の一部にすぎないのであって, この相互作用の電気部分と磁気部分への分け方は, それを記述するために選択した基準座標系 (reference frame) に非常に依存したものとなるのである.しかしながら, 全ての要素を含めた完備な電磁的記述は不変的である ( a complete electromagnetic description is invariant ) .すなわち, 電気と磁気を一緒にするとアインシュタインの相対論を満たすものとなるのである.(下図を参照のこと).

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系 $S$ では電荷密度はゼロで電流密度は $\mb{j}$ である.よって磁場だけが存在する.系 $S^{'}$ では電荷密度 $\rho^{'}$ と異なる電流密度 $\mb{j}^{'}$ が存在し, 異なる磁場 $\mb{H}^{'}$ と共に電場 $E^{'}$ も存在するように見える.

基準座標系を変えると電場と磁場は異なる混合の仕方に見えるので, 場 $\mb{E}$ と $\mb{H}$ の見方には注意しなければならない.例えば, $\mb{E}$ と $\mb{H}$ の すなわち電気力線と磁力線を考えるとき, 余りに多くの実在性をそれらに付与するべきではない.異なる基準座標系から観測してそれらの力線を消すことも出来るからである.例えば, 系$ S^{'}$ では電気力線が存在しているが, 系 $S$ ではそれが速度 $v$ で通り過ぎるのを観測することは決して無い.系$S$ では電気力線は全く存在しないからだ!.従って, 例えば「磁石を動かすとき, それは場も一緒に運ぶから $\mb{H}$ の磁力線も移動する」のような言い方は意味をなさない.一般に 運動する力線の速度 という考えに意味を与える仕方は存在しない.場というのは, 空間内の一点で何が起こっているかを記述する仕方である.特に, 電場 $\mb{E}$ と磁場 $\mb{H}$ が表現するのは運動する粒子に作用する力についてである.「運動する磁場から電荷はどんな力を受けるのか?」という質問に, 正しい意味は全く存在しない.力は電荷が受ける $\mb{E}$ と $\mb{H}$ の値で与えられるのであって, $\mb{E}$ や $\mb{H}$ の源が運動していてもローレンツ力の公式 (13.1) が変化することはない.( 運動することで変化するのは電場 $\mb{E}$ や磁場 $\mb{H}$ の値である ).我々の数学的記述は, ある慣性系に於ける $x$, $y$, $z$, $t$ の関数としての場だけを扱うものである.

4次元表記での電気力学

前述のブログ記事:「グリーン関数について part 4 」に於いて, マクスウェル方程式をポテンシャル $\phi$ と $\mb{A}$ で表現したもので,「ローレンツ条件」を満たすものは次であることを示した:

\begin{align*} &\left(\nabla^{2}-\frac{1}{c^{2}}\frac{\partial^{2}}{\partial t^{2}}\right)\mb{A}(\mb{x},t) =-\frac{4\pi}{c}\mb{j}(\mb{x},t),\tag{10'}\\ &\left(\nabla^{2}-\frac{1}{c^{2}}\frac{\partial^{2}}{\partial t^{2}}\right)\phi(\mb{x},t) =-4\pi\rho(\mb{x},t),\tag{11'}\\ &\text{div}\,\mb{A}+\frac{1}{c}\ppdiff{\phi(\mb{x},t)}{t}=0\tag{9'} \end{align*}

この結果式 (10') と式 (11') は, 上記の新しい4元の表記を用いて次に書くことが出来る:

\begin{equation} \square^{2}\phi = 4\pi\rho,\quad \square^{2}\mb{A}=\frac{4\pi}{c}\mb{j} \tag{25.21} \end{equation} これより4つの量 $\rho$, $j_{x}$, $j_{y}$, $j_{x}$ は4ベクトルを成し, またダランベール演算子は座標系が変換されても不変であったから, 量 $\phi$, $A_x$, $A_y$, $A_z$ もまた4ベクトルとして変換されるべきであると言える.要するに, $$ A_{\mu}=\left( \frac{\phi}{c}, \mb{A} \right) $$ は4ベクトルである!.スカラーポテンシャル $\phi$ やベクトルポテンシャル $\mb{A}$ と呼んでいるものは,「実は同じ物理的なものの異なる外見にすぎない」のであって,それらは同じグループを成すのである ( they belong together ). それらが一緒に保たれる限り, 自然界の相対論的不変性は明らかである.よって $A_{\mu}$ を「4元ポテンシャル」と呼ぶ.この方程式の物理的内容はマクスウェル方程式と全く同じである.しかしそれらをエレガントな形に書き直すことが出来ることに幾分かの喜びがある.綺麗な形は意義もある.つまり「ローレンツ変換下での電気力学の不変性」を直接的に表しているからである.

式 (25.21) がマクスウェル方程式から導出され得るのは, 式 (9') の「ゲージ条件」を課す場合だけであることを忘れてはならない.それを4ベクトル表記で書くと次となる: $$ \nabla_{\mu} A_{\mu}=0 \tag{25.23} $$ このゲージ条件すなわち「ローレンツ条件」は「4ベクトルの発散がゼロである」ことを主張している.このことは非常に便利なことである.なぜなら, それは不変条件なので「全ての座標系でマクスウェル方程式を式 (25.22) の形に保つ」からである.


( 追記 ) $c$ の挿入の間違いが沢山あったので修正した.ファインマンの $c=1$ とする式の記述を修正するには, Jackson の初版の § 12.1 を参照すると,

\begin{equation} p\to cp,\quad E\to E,\quad m\to mc^{2},\quad v\to v/c \notag \end{equation} のように換算をすると良いようだ.