ファインマンさんの肩に乗って晴耕雨読の日々

ファインマンを読んで気付いた事そして日常生活の記録

電磁気学の相対論的記述 part 1

前のブログで「Liénard-Wiechertポテンシャルは相対論的な式である」ことを述べた.相対論はずっと前に内山の教科書で学んだが内容はもうすっかり忘れているし, 最近は「相対論をちゃんと分かってないな」と痛感することがしばしばである.ファインマン物理学のVol. II の§ 25 から § 28 までは相対論に於ける電磁気学の説明がなされている.そこで, その中から重要と思われる事柄をいつものように抜粋してまとめることで, 相対論的な電磁気学の復習をしておこうと思う.

25 Electrodynamics in Relativistic Notation

この章では $c=1$ とする.

4-ベクトル

今度は, 特殊相対論の電気力学への適用を議論する.我々は既に Vol.I の第15章と第17章で特殊相対性理論を議論しているので, 簡単な基礎的な考えだけを復習しておこう.

実験的に「我々が一定な速度で運動していても物理法則は変化しない」ことが分かっている.宇宙船の外を見ない限り, または少なくとも外界と関係する観測を行わない限り, あなたが直線的に一定速度で運動している宇宙船の中にいるかどうかは言うことが出来ない (You can't tell if).我々が書き下すどんな真の物理法則も, この自然の事実が組み込まれているように取り決めてあるべきである (must be arranged).

一つの座標 $S^{'}$ がもう一つの座標系 $S$ に対して相対速度 $v$ で $x$-方向に一様な運動をしている2つの座標系についての空間と時間の間の関係は, 次のローレンツ変換で与えられる: $ \def\BK#1#2{\langle #1|#2\rangle} \def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}} \def\odiff#1{\frac{d}{d #1}} \def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}} \def\bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2}#1}{\partial #2^{2}}} \def\bpdiff#1{\frac{\partial^{2}}{\partial #1^{2}}} \def\mb#1{\mathbf{#1}} \def\ds#1{\mbox{${\displaystyle\strut #1}$}} $

\begin{equation} t'=\frac{t-vx}{\sqrt{1-v^{2}}},\quad x'=\frac{x-vt}{\sqrt{1-v^{2}}},\quad y'=y,\quad z'=z. \tag{25.1} \end{equation}

物理法則は, ローレンツ変換後の新たな法則の形が, 元の形と全く同じに見えるようになっていなければならない.これはちょうど「物理法則は座標系の向き (orientation) には依存しないという原則」と似ている.Vol.I の第11章で, 回転に対して物理法則の不変性を数学的に記述する方法は, 方程式をベクトルの表現で書き表すことであることを知った.

例えば, 次の2つのベクトルを考えるならば,

\begin{equation*} \mb{A}=(A_x,A_y,A_z)\quad\text{and}\quad \mb{B}=(B_x,B_y,B_z) \end{equation*}

次の組み合わせは, 回転した座標系の方に変換されても不変であることを知った:

\begin{equation*} \mb{A}\cdot\mb{B}=A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z=A_x^{'} B_x^{'} +A_y^{'} B_y^{'} +A_z^{'} B_z^{'} \end{equation*}

従って, ある方程式の両辺に $\mb{A}\cdot\mb{B}$ のようなスカラー積があるならば, その方程式は全ての回転した座標系で全く同じ形を持つであろうことが分かる.また, 次の演算子

\begin{equation*} \nabla =\left(\pdiff{x},\pdiff{y},\pdiff{z}\right) \end{equation*}

は, スカラー関数に作用するとき, ベクトルと全く同じ変換をする3つの量を与えることも発見した.この演算子を用いることで, 勾配 (gradient) を定義し, また他のベクトルとの組み合わせることで発散 (divergence) とラプラシアン (Laplacian) を定義した.最後に, 2つのベクトルの成分のペアのある掛け合わせの和を取ることで新たなベクトルとして振る舞う3つの新しい量を得ることが出来ることを見出した.それを 2つのベクトルの「ベクトル積」または「外積」と呼んだ.演算子 $\nabla$ との外積を用いてベクトルの回転 (curl) は定義されたのであった.

ベクトル解析で行なった事を振り返って参照するであろうから, 下表 に過去に用いた 3次元に於ける重要なベクトル演算子のまとめを書いておく.ポイントは,「物理の方程式は, 両辺が回転の下では同じ仕方で変換するように書けなければならない」ということである.もし一方の辺がベクトルならば, 他方の辺もやはりベクトルでなければならない.そして座標系を回転したならば, 両辺は全く同じ仕方で一緒に変化するであろう.同様にして, 一方の辺がスカラーなら, 他方の辺もまたスカラーであるべきである.従って, 座標を回転しても両辺は何方も変化しない, 等々である.

ベクトルの定義 $\mb{A}=(A_x,A_y,A_z)$
スカラー $\mb{A}\cdot\mb{B}$
微分ベクトル演算子 $\nabla$
勾配(grad) $\nabla\phi$
発散(div) $\nabla\cdot\mb{A}$
ラプラシアン $\nabla\cdot\nabla=\nabla^{2}$
ベクトル積 $\mb{A}\times\mb{B}$
回転(curl) $\nabla\times\mb{A}$

さて特殊相対論の場合には, 時間と空間は切り離せないように混ざり合っており, 4つの次元で同様なことをしなければならない ( time and space are inextricably mixed, and we must do the analogous things for four dimentions ).我々の求める方程式は, 回転の場合だけでなくどのような慣性系でも同じであって欲しい.すなわち, 求めるべき方程式はローレンツ変換したときに不変であるべきである.この章の目的は, それがどのようにしたら達成出来るのかを示すことである.しかしながら議論を始める前に, 議論がずっと簡単になるようなこと, そして幾分の混乱を避けることをしたい.それは光の速さ $c$ が 1 となるような長さと時間の単位を選ぶことである.それは「時間の1単位を光が1メートル進む時間にとる」 (それは約 $3\times 10^{-9}$ sec である) と考えればよい.この時間単位を「1メートル」と呼ぶことだって出来る.この単位を用いると, 全ての数式の時空対称性がより一層明白となるであろう.また, 全ての $c$ が求める相対論の数式から消え去る.(もしこのことで当惑するならば, いつでも全ての $t$ を $ct$ で置き換えることで, または一般的には, 数式の次元が正しくする必要がある全ての場所に $c$ をくっつけることで ( by sticking in a $c$ ), 全ての数式を $c$ の付いたものに戻すことが可能である).以上の下地が出来れば, すぐに議論を開始できる.我々の計画は, 3次元のベクトルで行なった全てのことを 4次元で行うことである.それはまったく本当に簡単なゲームである.なぜなら類推で作業するだけだからである.実際に厄介なのは, その記法 (ベクトル記号はすでに3次元の場合に使ってしまっている) と, 符号をわずかに工夫することだけである.

まずは 3次元のベクトルとの類推から, 「4ベクトルは, 運動する座標系に移行するときに$t,x,y,z$と同様なやり方で変換する4つの量$a_t,a_x,a_y,a_z$ の1組である」と定義する.4ベクトルに対してはいくつか異なる記法が用いられている.ここでは $a_{\mu}$ と書き表すことにする.これは4つの数値のグループ $(a_t,a_x,a_y,a_z)$ を意味する.言い換えると, 添字 $\mu$ は4つの「値」$t,x,y,z$ を取れるのである.また, ときどきは3空間成分を3-ベクトルで示すのが便利である.例えば次のようである:$a_{\mu}=(a_t,\mb{a})$.

我々は既に一つの4ベクトルに遭遇している.それは粒子のエネルギーと運動量からなるものだ (Vol.Iの第17章).新しい記法でそれは次のように書き表す:

\begin{equation} p_{\mu}=(E,\mb{p}) \tag{25.2} \end{equation}

これは, 4ベクトル $p_{\mu}$ が粒子のエネルギー $E$ と運動量ベクトル $\mb{p}$ の3成分から成ることを意味している.

このゲームは実に全く単純であるように見える.つまり物理法則に於ける3ベクトルの各々に対してしなければならないのは, 残りの成分が何であるべきかを見出すだけで4ベクトルが得られるのである.これに当てはまらない場合を見るために, 次の成分を持つ速度ベクトルを考える:

\begin{equation*} v_x=\frac{dx}{dt},\quad v_y=\frac{dy}{dt},\quad v_z=\frac{dz}{dt}. \end{equation*}

問題は次である:「時間成分は何であろうか?」.直感が正しい解答を与えるはずである.4ベクトルは $t,x,y,z$ と似ているのだから, 時間成分は次であると予想するかもしれない:

\begin{equation*} v_t=\frac{dt}{dt}=1. \end{equation*}

これは間違いである!」.その理由は各々の分母にある $t$ がローレンツ変換をしたときに不変でないからである.分子は4ベクトルを成すように振る舞うが, 分母にある $dt$ が台無しにしてしまうのである.それは, 異なる2つの系で対称的でないし, また同じでないからだ.

前記した4つの「速度」成分は, $\sqrt{1-v^{2}}$ で割れば4ベクトルの成分となるであろう.それが正しいことは, 次の運動量4ベクトルから考えると分かる:

\begin{equation} p_{\mu}=(E,\mb{p})=\left(\frac{m_0}{\sqrt{1-v^{2}}},\frac{m_0\mb{v}}{\sqrt{1-v^{2}}}\right), \tag{25.3} \end{equation}

これを「4次元に於ける不変スカラー量」の静止質量 $m_0$ で割り算するのである.すなわち

\begin{equation} \frac{p_{\mu}}{m_0}=\left(\frac{1}{\sqrt{1-v^{2}}},\frac{\mb{v}}{\sqrt{1-v^{2}}}\right) \tag{25.4} \end{equation}

は, 依然として4ベクトルであるはずである.(不変なスカラーで割り算しても変換特性は変わらない).従って,「速度4ベクトル $u_{\mu}$」は, 次で定義することが出来る:

\begin{equation} u_t=\frac{1}{\sqrt{1-v^{2}}},\quad u_x=\frac{v_x}{\sqrt{1-v^{2}}},\quad u_y=\frac{v_y}{\sqrt{1-v^{2}}},\quad u_z=\frac{v_z}{\sqrt{1-v^{2}}}, \tag{25.5} \end{equation}

4ベクトルは有益な量である.例えば, それは次のように書くことが出来る:

\begin{equation} p_{\mu}=m_0 u_{\mu}. \tag{25.6} \end{equation}

これは相対論的に正しい方程式が持っていなくてならない典型的な形である.すなわち両辺が4ベクトルになっているのである.(右辺は4ベクトルに不変量を掛け合わせたもので, それは依然として4ベクトルである).

スカラー

座標回転しても原点とある点との距離が変化しないように出来るのは実に偶然なことである (? : It is an accident of life, if you wish, that under coordinate rotations the distance of a point from the origin does not change). これは数学的には $r^{2}=x^{2}+y^{2}+z^{2}$ が不変であることを意味する.言い換えれば, 回転した後で $r^{'2}=r^{2}$ であること, すなわち,

\begin{equation*} x^{'2}+y^{'2}+z^{'2}=x^{2}+y^{2}+z^{2}. \end{equation*}

が成り立つことを意味する.そこで問題は次のことである:「ローレンツ変換の下で不変であるような, 類似した量が存在するだろうか?」.それは存在する!.式(25.1)から, 次が言えることが分かる:

\begin{equation*} t^{'2}-x^{'2}=t^{2}-x^{2}. \end{equation*}

すなわち, 前述したように $c$ を付加して式を書くならば,

\begin{align*} c^{2}t^{'2}-x^{'2}&=c^{2}\frac{\ds{\left(t'-\frac{v}{c^{2}}x^{'}\right)^{2}}}{\ds{1-\frac{v^{2}}{c^{2}}}} -\frac{\left(x^{'}-vt^{'}\right)^{2}}{\ds{1-\frac{v^{2}}{c^{2}}}} =\frac{1}{c^{2}-v^{2}}\left\{c^{2}t^{'2}\left(c^{2}-v^{2}\right)-\left(c^{2}-v^{2}\right)x^{'2}\right\}\\ &=c^{2}t^{'2}-x^{'2} \end{align*}

これはかなり良い.ただし特定な $x$-方向を選択することを除けばだが.それを解決するには $y^{2}$ と $z^{2}$ を引き算すればよい.すると任意のローレンツ変換と回転をしてもその量は不変のままである.従って, 3次元での $r^{2}$ に類似した4次元の量は次である:

\begin{equation*} t^{2}-x^{2}-y^{2}-z^{2},\quad \text{or}\quad (ct)^{2}-\mb{r} \end{equation*}

これは, いわゆる「完全ローレンツ群 (complete Lorentz group)」と呼ばれる変換の下で不変となる.完全ローレンツ群とは, 「一定速度での並進」および「回転」の両方の変換の場合という意味である.

さてこの不変性は式(25.1), それと回転, の変換則だけに依存する代数学的な事柄であるので, それは任意の4ベクトルに言えることである (定義からそれらは全て同様な仕方で変換される).従って, 4ベクトル $a_{\mu}$ の場合には次となる:

\begin{equation*} a^{'2}_t-a^{'2}_x -a^{'2}_y -a^{'2}_z =a^{2}_t - a^{2}_x - a^{2}_y - a^{2}_z \end{equation*}

この量を, 4ベクトル $a_{\mu}$ の「長さ」と呼ぼう.[ときどき全ての符号を変えて, $a^{2}_x+a^{2}_y+a^{2}_z-a^{2}_t$ を長さと呼ぶ人もいるので注意する (watch out) 必要がある].

次に2つのベクトル $a_{\mu}$ と $b_{\mu}$ があり, 各々の同じ成分が同じ仕方で変換するならば, 次の組み合わせ

\begin{equation*} a_tb_t-a_x b_x -a_y b_y -a_z b_z \end{equation*}

は, やはり不変なスカラー量である.(これはすでに Vol. I. の第17章で証明してある).この表現式は明らかにベクトルの内積に非常によく似ている. 実は, これを我々は4ベクトルの「内積 」(dot product) または「スカラー 」 (scalar product) と呼んでいる.それを $a_{\mu}\cdot b_{\mu}$ と書くのが論理的だと思うかも知れない.そうすれば内積のように見えるから.しかし残念ながらそのようにはしない!.通常はドットなしに書く. 従って, その慣例に従って, 内積は簡単に $a_{\mu}b_{\mu}$ と書く.よって, 定義から次となる:

\begin{equation} a_{\mu}b_{\mu}=a_tb_t-a_xb_y-a_yb_y-a_zb_z \tag{25.7} \end{equation}

同じ添字が一緒に2つあることが分かったら (ときには $\mu$ の代わりに $\nu$ を使わなければならない), それは4成分同士を掛け合わせそれらを足し合わせなければならない」ことを意味している.その際,「空間成分の積にはマイナス符号が付くこと」を忘れないようにしよう!.この慣例を使うと, ローレンツ変換の下でのスカラー積の不変性は次のように書くことが出来る:

\begin{equation*} a^{'}_{\mu}b^{'}_{\mu}=a_{\mu}b_{\mu}. \end{equation*}

式(25.7)の最後の3項はちょうどスカラー量である3次元での内積になっているので, 次のように書くとずっと便利な場合が多い:

\begin{equation*} a_{\mu}b_{\mu}=a_tb_t-\mb{a}\cdot\mb{b}. \end{equation*}

上述した4次元的な長さは, 明らかに $a_{\mu}a_{\mu}$として書ける:

\begin{equation} a_{\mu}a_{\mu}=a^{2}_t-a^{2}_x-a^{2}_y-a^{2}_z=a^{2}_t-\mb{a}\cdot\mb{a} \tag{25.8} \end{equation}

ときどきこの量を $a^{2}_{\mu}$ と書くこともまた便利である:

\begin{equation*} a^{2}_{\mu}\equiv a_{\mu}a_{\mu}. \end{equation*}

さてここで, 4ベクトルの内積の便利さの一例を示すことにしよう.反陽子 ($\bar{\text{P}}$) は巨大な加速器の中で次の反応によって生成される:

\begin{equation*} \text{P}+\text{P}\rightarrow \text{P}+\text{P}+\text{P}+\bar{\text{P}}. \end{equation*}

すなわち, エネルギーを持った陽子が静止している陽子と衝突する (例えば, ビーム中に置かれた水素ターゲットの中で).そしてもし入射する陽子が十分なエネルギーを持っているならば, 元の2つの陽子に加えて, さらに陽子-反陽子対も生成され得る.問題は次である:「この反応がエネルギー的に可能とするには, どれくらいのエネルギーを入射陽子に与えればよいだろか?」.

最も簡単な解答方法は「これが重心系ではどんな反応に見えるか?」を考察することである. (下図を参照すべし.ただし入射陽子は,かろうじて反応が起こる だけのエネルギーしか持たないと仮定する.陽子は黒丸で反陽子は白丸で表記されている).

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実験系と重心系から見た反応P+P$\rightarrow$3P+$\bar{\text{P}}$.

入射陽子を $a$ と呼ぶことにし, その4-運動量を $p^{a}_{\mu}$ とする.もし入射陽子が辛うじて反応を起こすだけのエネルギーしか持っていないならば, 最終状態すなわち衝突後の状況は, 3つの陽子と1つの反陽子を含んだ塊 (glob) が重心系 (CM system) で静止しているものとなるであろう.もし入射エネルギーがわずかに大きいと, 最終状態の粒子たちはいくらかのエネルギーを持ちそしてバラバラに運動しているであろう.また入射エネルギーがわずかに小さいと, 十分なエネルギーが無いので4つの粒子は作られないであろう.

最終状態の塊全体が持つ全4-運動量ベクトルを $p^{c}_{\mu}$ と呼ぶことにすると, エネルギー及び運動の保存則から次が言える:

\begin{equation*} \mb{p}^{a}+\mb{p}^{b}=\mb{p}^{c},\quad E^{a}+E^{b}=E^{c}. \end{equation*}

これら2つの式を一緒にして, 次のように書くことが出来る:

\begin{equation} p^{a}_{\mu}+p^{b}_{\mu}=p^{c}_{\mu} \tag{25.9} \end{equation}

さてここで重要なことは「上式は4ベクトルに於ける式であり, 従って任意の慣性系で正しい」ということである.この事実は計算を簡単化するのに利用できる.まずは, 式の両辺の「長さ」を得ることから始めよう.「それらは勿論だがやはり等しい」ので次を得る:

\begin{equation} \left(p^{a}_{\mu}+p^{b}_{\mu}\right)\left(p^{a}_{\mu}+p^{b}_{\mu}\right)=p^{c}_{\mu}\,p^{c}_{\mu}. \tag{25.10} \end{equation}

$p^{c}_{\mu}\,p^{c}_{\mu}$ は不変なので, それを評価するには任意の座標系で行うことが出来る. 重心系では $p^{c}_{\mu}$ の時間成分は4つの陽子の静止エネルギー, すなわち $4M$ である.そして空間部分 $\mb{p}$ はゼロである.従って, $p^{c}_{\mu}=(4M,0)$ である.このとき反陽子の静止質量は陽子の静止質量に等しいという事実を用いている.そしてその共通な質量を M と呼んでいる.

従って, 式(25.10)は次となる:

\begin{equation} p^{a}_{\mu}\,p^{a}_{\mu}+2p^{a}_{\mu}\,p^{b}_{\mu}+p^{b}_{\mu}\,p^{b}_{\mu}=16M^2. \tag{25.11} \end{equation}

このとき $p^{a}_{\mu}\,p^{a}_{\mu}$ と $p^{b}_{\mu}\,p^{b}_{\mu}$ は非常に簡単である.なぜなら, 任意の粒子の運動量4ベクトルの長さは, ちょうど粒子質量を2乗したものだからである:

\begin{equation*} p_{\mu}\,p_{\mu}=E^{2}-\mb{p}^{2}=M^{2}. \end{equation*}

これは直接計算して示すことも出来るし, または, 静止した粒子の場合には $p_{\mu}=(M,0)$ であることに気付いて $p_{\mu}\,p_{\mu}=M^{2}$ とするのがより賢いやり方である.しかしながらそれは不変量であったから, 任意の座標系で $M^{2}$ である.これらの結果を式(25.11)に用いると, 次を得る:

\begin{equation} M^{2}+2p^{a}_{\mu}\,p^{b}_{\mu}+M^{2}=16M^{2},\quad\text{or}\quad p^{a}_{\mu}\,p^{b}_{\mu}=7M^{2} \tag{25.12} \end{equation}

さて今度は, 実験室系に於いて $p^{a}_{\mu}\,p^{b}_{\mu}=p^{a^{'}}_{\mu}\,p^{b^{'}}_{\mu}$ を評価して見ることも出来る. 4ベクトル $p^{a^{'}}_{\mu}$ は $(E^{a^{'}},\mb{p}^{a^{'}})$ と書くことが出来る.他方 $p^{b^{'}}_{\mu}=(M,0)$ である. なぜなら, 実験室系での $p^{b^{'}}_{\mu}$ は静止した陽子を描写するものだったからである.従って$p^{a^{'}}_{\mu}\,p^{b^{'}}_{\mu}$ は $ME^{a'}$ に等しいとも言えるはずである:

\begin{equation*} p^{a^{'}}_{\mu}\,p^{b^{'}}_{\mu}=(E^{a^{'}},\mb{p}^{a^{'}})(M,0)=(ME^{a^{'}},0)=ME^{a^{'}} \end{equation*}

そしてスカラー積は不変であるから, これは数値的には式(25.12)で見出したものと同じはずである.従って次を得る:

\begin{equation*} p^{a^{'}}_{\mu}\,p^{b^{'}}_{\mu}=ME^{a^{'}}=p^{a}_{\mu}\,p^{b}_{\mu}=7M^{2}\quad\rightarrow\quad ME^{a^{'}}=7M^{2}\quad \therefore\quad E^{a'}=7M. \end{equation*}

これが我々が求めていた結果である (which is the result we were after).入射陽子の全エネルギーは少なくとも $7M$, すなわち $M=938$MeV なのでおよそ $6.6$GeV でなければならない.または, 静止質量 M を差し引けば, 運動エネルギーは少なくとも $6M$ (およそ5.6 GeV ) でなければならない.バークレーのベバトロン加速器は陽子を加速してそれに約6.2GeV の運動エネルギーを与えて反陽子を生成できるように設計されたのである.

スカラー積は不変なので, スカラー積を評価することはいつも興味深いことである.4-速度ベクトルの長 $u_{\mu}u_{\mu}$は如何だろうか?.

\begin{equation*} u_{\mu}u_{\mu}=u^{2}_{t}-\mb{u}^{2}=\frac{1}{1-v^{2}}-\frac{v^{2}}{1-v^{2}}=1. \end{equation*}

従って「$u_{\mu}$は4元の単位ベクトル」である!.